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桜花多くの春に逢ひぬれど
昨日今日をやためしにはせむ

歌の意味
桜の花には多くの春に出会ってきたけれど、院をお迎えした昨日と今日とを、後の世の手本としよう。
鑑賞
巻第一 春歌上 50

詞書「京極の家にて十種供養し侍りける時、白河院御幸せさせ給ひて、またの日歌奉らせ給ひけるによみ侍りける」
 作者が京極の邸で十種供養の法会を営んだ際、白河院が御幸され、その翌日に院が歌を奉らせたときに詠んだ歌である。これまで長い生涯の中で多くの春に桜を見てきたが、院をお迎えした昨日と今日の花こそを、後の世の手本としよう、と詠む。老いた作者にとって、院の御幸を得た花の日が生涯最高の春であったことをことほいでいる。
 作者の「京極前太政大臣」は藤原師実である。関白藤原頼通の子で、摂政、関白、太政大臣を歴任した。京極に邸を構え、京極殿と呼ばれた。

 初句「桜花」は、詠む対象を最初に示す。
 二句「多くの春に」は、長い生涯の中で迎えた多くの春をいい、作者の老齢を思わせる。
 三句「逢ひぬれど」の「ぬれ」は完了の助動詞「ぬ」の已然形、「ど」は逆接で、出会ってきたけれど、の意となる。
 四句「昨日今日をや」は、院の御幸のあった昨日と今日をいう。「や」は係助詞で、結句の「む」と係り結びをなす。
 結句「ためしにはせむ」の「ためし」は後の世の手本となる先例で、「む」は意志を表す。本巻の第四十五首「花のためしや今日ならむ」と同じく、院の御幸の日を後世の手本とする趣向である。

ためし:後の世の手本となる先例
じつしゆくやう:経典に十種の品を供えて供養する法会
作者
藤原師実
出典
千載和歌集
前の歌
花ゆゑにかからぬ山ぞなかりける 心は春の霞ならねど
次の歌
花盛り春の山辺を見渡せば 空さへ匂ふ心地こそすれ