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湊川うきねの床に聞こゆなり
生田の奥のさを鹿の声

歌の意味
湊川で舟に浮き寝をする床にまで聞こえてくる。生田の奥で鳴く牡鹿の声が。
鑑賞
巻第五 秋歌下 312

詞書「夜泊鹿といへる心をよめる」
 「夜泊鹿」の題で詠んだ歌である。湊川に舟を泊めて浮き寝をしている床にまで、生田の森の奥で鳴く牡鹿の声が聞こえてくる、と詠む。陸の奥深くから水の上の旅人のもとへ届く鹿の声に、旅寝のつらさと秋の寂しさとを重ねている。
 作者の「刑部卿範兼」は藤原範兼である。藤原能兼の子で、刑部卿に至った。歌学に通じ、歌学書「和歌童蒙抄」を著した。
 本歌から第三百十五首までの四首は「夜泊鹿」の題による一連で、夜、舟泊まりをしながら聞く鹿の声を詠む。

 初句「湊川」は摂津国の川で、舟を泊める場所を示す。一連の四首目の第三百十五首も同じ初句を置く。
 二句「うきねの床に」の「うきね」は、水の上に浮かんで寝る「浮き寝」の意と、つらい思いで寝る「憂き寝」の意を掛ける掛詞である。次歌の第三百十三首も「うきね」を詠む。
 三句「聞こゆなり」の「なり」は音によって判断する推定の助動詞である。ここで句切れとなり、聞こえてくるものを下の句で示す倒置の形をとる。次歌の第三百十三首も同じ三句を置く。
 四句「生田の奥の」の「生田」は摂津国の地名で、生田の森で知られる。湊川からさらに奥まった陸の方を示す。
 結句「さを鹿の声」は体言止めで、聞こえてくるものを最後に示す。一連の三首目の第三百十四首、一連を結ぶ第三百二十五首も同じ結句を置く。

うきね:水の上に浮かんで寝る「浮き寝」の意と、つらい思いで寝る「憂き寝」の意を掛ける
みなとがは:摂津国の川
いくた:摂津国の地名で、生田の森で知られる
作者
藤原範兼
出典
千載和歌集
前の歌
さらぬだに夕べ寂しき山里の 露の籬にを鹿鳴くなり
次の歌
うきねする猪名の湊に聞こゆなり 鹿の音おろす峰の松風