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聞くままにかたしく袖の濡るるかな
鹿の声には露や添ふらん

歌の意味
聞くにつれて、独り寝に敷いている袖が濡れてゆくことだ。鹿の声には露が添っているのだろうか。
鑑賞
巻第五 秋歌下 318

詞書は前の歌に続き「鹿の歌とてよめる」
 「鹿の歌」として詠んだ歌である。鹿の声を聞くにつれて、独り寝に敷いた袖が濡れてゆく、鹿の声には露が添って運ばれてくるのだろうか、と詠む。袖を濡らすのは実は自分の涙であるが、それを鹿の声に添う露のせいにすることで、悲しみを直接には言わずに表している。
 作者の「右京大夫季能」は藤原季能である。平安時代末から鎌倉時代初めの廷臣で、右京大夫などを務めた。
 本歌は、「鹿の歌」として詠まれた第三百十七首から第三百二十五首までの九首の一連の二首目である。

 初句「聞くままに」の「ままに」は、〜につれて、の意で、聞くにつれて、と鹿の声と袖の濡れとを結びつける。
 二句「かたしく袖の」の「かたしく」は、自分の衣の片袖だけを敷いて独りで寝ることをいう。独り寝の寂しさを示す。
 三句「濡るるかな」の「かな」は詠嘆である。ここで句切れとなる。
 四句「鹿の声には」は、鹿の声には、と袖が濡れる理由を声に求める。
 結句「露や添ふらん」の「や」は疑問の係助詞で、「らん」と連体形で結ぶ。露が添っているのだろうか、と涙を露に見立てて推し量る。

かたしく:自分の衣の片袖だけを敷いて独りで寝る
作者
藤原季能
出典
千載和歌集
前の歌
さを鹿の妻呼ぶ声もいかなれや 夕べはわきて悲しかるらん
次の歌
山里の暁方の鹿の音は 夜半のあはれの限りなりけり