さを鹿の妻呼ぶ声もいかなれや
夕べはわきて悲しかるらん
- 歌の意味
-
牡鹿が妻を呼ぶ声も、どういうわけなのか、夕べにはとりわけ悲しく聞こえるのだろう。
- 鑑賞
-
巻第五 秋歌下 317
詞書「鹿の歌とてよめる」
「鹿の歌」として詠んだ歌である。牡鹿が妻を呼んで鳴く声も、どうしてなのか、夕べにはとりわけ悲しく聞こえる、と詠む。鹿の声そのものは変わらないはずなのに、夕暮れという時刻が悲しみを深めることを、理由を問う形で表している。
作者の「左京大夫修範」は藤原脩範である。信西こと藤原通憲の子で、左京大夫などを務めた。
本歌は、「鹿の歌」として詠まれた第三百十七首から第三百二十五首までの九首の一連の一首目である。
初句「さを鹿の」の「さを鹿」は牡鹿をいう。
二句「妻呼ぶ声も」は、妻を呼んで鳴く声も、の意である。本巻の第三百七首の「妻呼ぶ鹿の」と同じ語を用いる。
三句「いかなれや」は、どういうわけか、と理由を問う。ここで句切れとなる。
四句「夕べはわきて」の「わきて」は、とりわけ、の意である。本巻の第三百六首第三百二十一首と同じく、鹿の声と夕べとを結びつける。
結句「悲しかるらん」の「らん」は現在推量の助動詞「らむ」で、悲しく聞こえるのだろう、と原因を推し量る。
さをしか:牡鹿
ゆふべ:日が暮れようとするころ、夕方
- 作者
-
藤原脩範
- 出典
-
千載和歌集
- 前の歌
-
宮城野の小萩が原を行くほどは 鹿の音をさへわけて聞くかな
- 次の歌
-
聞くままにかたしく袖の濡るるかな 鹿の声には露や添ふらん