漏らさばや忍び果つべき涙かは
袖のしがらみかくとばかりも
- 歌の意味
-
打ち明けたいものだ。忍び通せる涙であろうか、いやそうではない。袖のしがらみでせき止めかねているこの涙のことを、せめてこうだとだけでも。
- 鑑賞
-
巻第十一 恋歌一 680
詞書は前の歌に続き「題しらず」
打ち明けたい、忍び通せる涙だろうか、袖のしがらみのことを、せめてこうだとだけでも、と詠む。川の流れをせき止める柵になぞらえた袖も、あふれる涙を止めきれないとして、忍びきれなくなった恋心を、せめて一言なりとも相手に伝えたいと願っている。なお本文の結句は「かくとはかりも」とあり、読み仮名の行の「かくとはかりは」と一致しない。ここでは本文の表記に従う。
作者の「源有房」は平安時代末期の歌人である。家集に「有房集」がある。
本巻の第六百五十四首の「せきわびて漏らす心」と同じく、せき止めかねて漏らす恋心を詠む。
初句「漏らさばや」の「ばや」は自己の希望を表す終助詞で、打ち明けたいものだ、の意である。ここで句切れとなり、結句と倒置の関係にある。第六百五十四首の四句「漏らす心の」と同じく「漏らす」を詠む。
二句「忍び果つべき」の「果つ」は…し通す意、「べき」は可能の助動詞「べし」の連体形で、忍び通すことのできる、の意である。
三句「涙かは」の「かは」は反語で、涙であろうか、いやそうではない、の意である。ここで句切れとなる。
四句「袖のしがらみ」の「しがらみ」は川の流れをせき止める柵で、涙をせき止める袖をたとえる。
結句「かくとばかりも」は、こうであるとだけでも、の意で、初句の「漏らさばや」へ返る。
しのびはつ:最後まで忍び通す
しがらみ:川の流れをせき止めるために杭を打ち並べ、竹や柴を絡ませた柵
もらす:隠していたことを外に出す
- 作者
-
源有房
- 出典
-
千載和歌集
- 前の歌
-
永らへばつらき心も変はるやと 定めなき世を頼むばかりぞ
- 次の歌
-
恋しさを憂き身なりとて包みしは いつまでありし心なるらん