よしさらば逢ふと見つるに慰まん
覚むる現も夢ならぬかは
- 歌の意味
-
ええ、それならば、夢であの人に逢ったと見たことで心を慰めよう。夢から覚めたこの現実も、夢でないといえようか。いや、現実もまた夢なのだ。
- 鑑賞
-
巻第十二 恋歌二 720
詞書は前の歌に続き「題しらず」
ええ、それならば夢で逢ったことで心を慰めよう、覚めた現実も夢でないことがあろうか、と詠む。現実には逢えない恋人に夢で逢い、目覚めて嘆くものの、この世の現実もまた夢のようにはかないものだと思い直し、夢の逢瀬に慰めを見いだそうとする歌である。
作者の「権大納言実家」は右大臣藤原公能の子である。権大納言に至った。兄に後徳大寺左大臣藤原実定がいる。
前歌の第七百十九首の四句「さらば」を受けるように、本歌は初句を「よしさらば」として始まる。本巻の第七百五十六首も、夢を契りとして覚める別れを嘆く歌で、夢と現を詠む点で対応する。
初句「よしさらば」の「よし」は、ままよ、ええ、と思い切る気持ちを表し、「さらば」は、それならば、の意である。前歌の四句「さらば」と同じ語を用いる。
二句「逢ふと見つるに」の「見つる」は、夢に見た、の意で、夢で逢ったと見たことに、の意である。
三句「慰まん」の「ん」は意志の助動詞「む」で、心を慰めよう、の意である。ここで句切れとなる。
四句「覚むる現も」の「覚むる」は夢から覚める、「現」は現実の意で、覚めたこの現実も、の意である。
結句「夢ならぬかは」の「かは」は反語で、夢でないことがあろうか、現実もまた夢なのだ、の意である。
うつつ:現実。夢に対していう
- 作者
-
藤原実家
- 出典
-
千載和歌集
- 前の歌
-
潮垂るる伊勢をの海人や我ならん さらばみるめを刈るよしもがな
- 次の歌
-
いかばかり思ふと知りてつらからん あはれ涙の色を見せばや