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薫る香によそふるよりはほととぎす
聞かばや同じ声やしたると

歌の意味
花橘の薫る香りによそえて亡き人をしのぶよりは、ほととぎすの声を聞きたいものだ。亡き人と同じ声をしているかどうかと。
鑑賞
巻第十六 雑歌上 971

詞書「弾正尹為尊の親王隠れ侍りてのち、太宰帥敦道の親王、花橘を遣はして、いかが見ると言ひて侍りければ、遣はしける」
 恋人であった弾正尹為尊親王が亡くなったのち、その弟の太宰帥敦道親王が花橘を贈ってきて、どう御覧になるか、と言ってきたので送った歌である。花橘の香りによそえて亡き人をしのぶよりは、ほととぎすの声を聞きたい、亡き人と同じ声をしているかと、と詠む。昔の人をしのぶ花橘を贈った敦道親王に対し、香りよりも声を聞きたいと答え、兄と同じ声かどうか確かめたいと、親王その人への関心をほのめかしている。この贈答から和泉式部と敦道親王の恋が始まったことが、『和泉式部日記』の冒頭に記されている。
 作者の「和泉式部」は越前守大江雅致の娘である。和泉守橘道貞の妻となって小式部内侍を生み、のち為尊親王、敦道親王と恋愛関係を結んだ。上東門院彰子に仕え、情熱的な恋の歌で知られる。
 花橘を昔の人の思い出と結ぶ発想は、『古今和歌集』の「五月待つ花橘の香をかげば昔の人の袖の香ぞする」を踏まえている。

 初句「薫る香に」は、花橘の薫る香りに、の意で、敦道親王の贈った花橘を指す。
 二句「よそふるよりは」の「よそふ」は、なぞらえる、ことよせる意で、香りによそえて亡き人をしのぶよりは、の意である。
 三句「ほととぎす」は、花橘と取り合わされる夏の鳥で、ここでは敦道親王をほのめかしている。
 四句「聞かばや同じ」の「ばや」は願望の終助詞で、聞きたいものだ、の意である。ここで句切れとなり、以下は倒置となっている。
 結句「声やしたると」の「や」は疑問の係助詞、「たる」は完了の助動詞「たり」の連体形で、亡き人と同じ声をしているかと、の意である。

はなたちばな:橘の花
よそふ:なぞらえる、ことよせる
かくる:亡くなる
作者
和泉式部
出典
千載和歌集
前の歌
ちはやぶる斎の宮の旅寝には あふひぞ草の枕なりけり
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昨日まで御手洗川にせし禊 志賀の浦波立ちぞ変はれる