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心あらば匂ひを添へよ桜花
後の春をばいつか見るべき

歌の意味
心があるならば、いっそう美しい色香を添えてくれ、桜の花よ。この先の春を、私はいつまた見ることができるだろうか。
鑑賞
巻第十七 雑歌中 1052

詞書「五十の御賀過ぎて又の年の春、鳥羽殿の桜の盛りに、御前の花を御覧じて、詠ませ給うける」
 五十歳の賀の祝いを終えた翌年の春、鳥羽殿の桜が盛りの時に、御前の花をご覧になって詠まれた御製である。心があるならば色香をいっそう添えよ、桜の花よ、この先の春をいつ見ることができようか、と詠む。五十の賀を過ぎて老いを自覚し、来年の春もまた花を見られるとは限らないという思いから、今年の花にこそいっそう美しく咲いてほしいと呼びかけている。栄華の中にあっても命の限りを見つめる、しみじみとした歌である。
 作者の「鳥羽院御製」は鳥羽天皇の御製である。堀河天皇の皇子で、譲位の後は崇徳、近衛、後白河の三代にわたって院政を行った。鳥羽殿は京の南の鳥羽に営まれた離宮で、院の御所として用いられた。
 雑歌中の巻頭の一首である。巻末の第千百五十九首は後白河院の恩情を伝える歌で、院にまつわる歌で巻が始まり、院にまつわる歌で巻が閉じられている。また本歌から第千七十五首までは、春の花に寄せて老いや出家遁世の思いを述べる歌が並ぶ。

 初句「心あらば」は、心があるならば、の意で、桜の花を人に見立てて呼びかけている。次歌の第千五十三首の結句「心ならねば」と「心」を共有する。
 二句「匂ひを添へよ」の「匂ひ」は花の照り映える美しさをいい、「添へよ」は命令形で、いっそう美しさを加えよ、の意である。
 三句「桜花」は呼びかけで、ここで句切れとなる。二句の命令と倒置の関係にあり、花への呼びかけを強めている。次歌の第千五十三首も三句に「桜花」を置く。
 四句「後の春をば」は、これから先の春を、の意で、「をば」は目的を示す「を」を強めた形である。
 結句「いつか見るべき」の「いつか」は、いつ、の意の疑問の語、「べき」は可能の助動詞「べし」の連体形で、いつ見ることができようか、の意である。老い先を思う嘆きがこもる。

ごが:年齢の節目を祝う賀の祝い
とばどの:京の南の鳥羽にあった離宮
にほひ:照り映えるような色の美しさ
作者
鳥羽天皇
出典
千載和歌集
前の歌
行く年は波とともにや返るらん 面変はりせぬ和歌の浦かな
次の歌
はかなさを恨みも果てじ桜花 憂き世は誰も心ならねば