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惜しからぬ命ぞさらに惜しまるる
君が都に帰り来るまで

歌の意味
惜しくもない我が命が、今はいっそう惜しまれることだ。あなたが都に帰って来るまでは。
鑑賞
巻第十七 雑歌中 1132

詞書「前大僧正覚忠、御嶽より大峰にまかり入りて、神仙といふ所にて金泥法華経書き奉りて埋み侍るとて、五十日ばかりとどまりて侍りけるに、房覚が熊野の方よりまかり入りけるにつけて言ひ送りて侍りける」
 覚忠が金峰山から大峰に入り、神仙という所で金泥で法華経を書写して埋めるために五十日ほどとどまっていた時、房覚が熊野の方から山に入るのに託して贈った歌である。惜しくもない命がいっそう惜しまれる、あなたが都に帰って来るまでは、と詠む。老いた身にとって命は惜しいものではなかったが、厳しい山中の修行に入った覚忠が無事に都に帰るのを見届けるまでは死ねないと、修行に入った友の身を案じる心を込めている。
 作者の「前大納言成通」は藤原成通である。権大納言藤原宗通の子で、大納言に至った。蹴鞠の名手として名高い。
 次歌の第千百三十三首は、本歌に対する覚忠の返歌である。

 初句「惜しからぬ」は、惜しくもない、の意である。
 二句「命ぞさらに」の「ぞ」は強意の係助詞で、三句の「惜しまるる」で結ぶ。「さらに」は、いっそう、の意である。
 三句「惜しまるる」の「るる」は自発の助動詞「る」の連体形で、自然と惜しく思われる、の意である。係り結びの結びで、ここで句切れとなる。初句の「惜しからぬ」と対照させている。
 四句「君が都に」は、あなたが都に、の意である。次歌の第千百三十三首の四句「君が問ふにや」と「君が」を共有する。
 結句「帰り来るまで」は、帰って来るまでは、の意で、倒置によって三句に返る。

こんでい:金粉を膠で溶いたもの
うづむ:地中に埋める、経塚とする
みたけ:大和国の金峰山
作者
藤原成通
出典
千載和歌集
前の歌
明日知らぬ三室の岸の根なし草 何あだし世に生ひ始めけん
次の歌
憂き世をば捨てて入りにし山なれど 君が問ふにや出でんとすらん