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春霞立ちて雲居になりゆくは
かりの心の変はるなるべし

歌の意味
春霞が立って雲のかなたのように遠い人になっていくのは、北へ帰る雁のように、かりそめの心が変わったからなのだろう。
鑑賞
巻第二 春歌中 75

詞書「京極の御息所に送り侍りける」
 春霞が立つと雁が雲のかなたへ去っていくように、相手が遠い存在になっていくのは、かりそめの心が変わったからだろうと詠んだ歌である。春の景物に託して、離れていく相手の心変わりを恨んでいる。
 詞書によれば、京極御息所に贈ったものである。京極御息所は藤原時平の娘の褒子で、宇多法皇の寵愛を受けた人である。
 作者は「よみ人しらず」で、詠み手の名は伝わらない。原文の作者表記は「よみ人も」とあるが、ここでは「よみ人しらず」として扱う。

 初句「春霞」は、春に立つ霞を示し、次の「立ちて」を導いている。
 二句「立ちて雲居に」は、霞が立って雲のかなたへと広がるさまを示す。「雲居」は雲のある遠い空で、手の届かない所を表し、宮中の意も持つ。
 三句「なりゆくは」は、遠い存在になっていくのは、の意である。
 四句「かりの心の」の「かり」は、春に北へ帰る「雁」と、一時的な意の「仮」を掛けた掛詞である。本巻の第六十首の「帰る雁」とも響き合っている。
 結句「変はるなるべし」の「なる」は断定の助動詞、「べし」は推量で、心が変わったからなのだろう、と推し量っている。

かり:春に北へ帰る「雁」と、一時的な意の「仮」を掛ける
くもゐ:雲のある遠い空、また宮中
作者
よみ人しらず
出典
後撰和歌集
前の歌
春雨の世にふりにたる心にも なほ新しく花をこそ思へ
次の歌
寝られぬをしひて我が寝る春の夜の 夢をうつつになすよしもがな