ひぐらしの声聞く山の近けれや
鳴きつるなへに入り日さすらん
- 歌の意味
-
ひぐらしの声を聞く山が近いからだろうか、ひぐらしが鳴いたのにつれて、夕日が差しているのだろう。
- 鑑賞
-
巻第五 秋歌上 254
詞書「題しらず」
ひぐらしの声を聞く山が近いからか、ひぐらしが鳴くとともに夕日が差していると詠んだ歌である。「ひぐらし」の名に「日暮らし」を響かせ、その鳴き声とともに日が暮れていくことを機知的に捉えている。
本巻の第二百五十四首から第二百六十一首までは、紀貫之の「題しらず」の歌が八首続き、ひぐらし、きりぎりす、松虫と、秋の虫の声を順に詠んでいる。
作者の「つらゆき」は紀貫之である。紀望行の子で、古今和歌集の撰者の中心となり、仮名序を書いた。土佐守などを務め、土佐日記の作者としても知られる。三十六歌仙の一人である。
初句「ひぐらしの」は、ひぐらしの、の意で、その名に「日暮らし」の意を響かせている。前歌の結句「ひぐらしの声」を受けている。
二句「声聞く山の」は、その声を聞く山の、の意である。
三句「近けれや」は、近ければや、の意で、「や」は疑問の係助詞である。近いからだろうか、の意で、ここで句切れとなる。
四句「鳴きつるなへに」の「なへに」は、それにつれて、の意で、前歌の第二百五十三首の「吹くなへに」と同じ語を用いている。
結句「入り日さすらん」の「らん」は原因を推量する助動詞の連体形で、三句の「や」と係り結びをなす。夕日が差しているのだろう、の意である。
いりひ:沈もうとしている夕日
ひぐらし:夏の終わりから秋にかけて、夕暮れなどにカナカナと鳴く蝉、名に「日暮らし」の意を響かせる
- 作者
-
紀貫之
- 出典
-
後撰和歌集
- 前の歌
-
秋風の草葉そよぎて吹くなへに ほのかにしつるひぐらしの声
- 次の歌
-
ひぐらしの声聞くからに松虫の 名にのみ人を思ふころかな