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秋の野に来宿る人もおもほえず
誰を松虫ここら鳴くらん

歌の意味
秋の野に来て宿る人がいるとも思われない。誰を待って、松虫はこんなにもたくさん鳴いているのだろう。
鑑賞
巻第五 秋歌上 260

詞書「題しらず」
 秋の野に来て宿る人がいるとも思われないのに、松虫は誰を待ってこんなにたくさん鳴いているのだろうと詠んだ歌である。前歌に続いて「松虫」に「待つ」を響かせ、来る人のない野で鳴き続ける虫の声のむなしさを表している。
 本巻の第二百五十四首から第二百六十一首までは、紀貫之の「題しらず」の歌が八首続き、ひぐらし、きりぎりす、松虫と、秋の虫の声を順に詠んでいる。
 作者の「つらゆき」は紀貫之である。紀望行の子で、古今和歌集の撰者の中心となり、仮名序を書いた。土佐守などを務め、土佐日記の作者としても知られる。三十六歌仙の一人である。

 初句「秋の野に」は、秋の野に、の意で、前歌の三句「秋の野に」を受けている。
 二句「来宿る人も」は、やって来て宿る人も、の意である。
 三句「おもほえず」は、思われない、の意で、ここで句切れとなる。本巻の第二百二十六首も三句に「おもほえず」を置いている。
 四句「誰を松虫」は、誰を待って松虫は、の意で、「松」に「待つ」を掛けている。前歌の「誰松虫ぞ」と同じ趣向である。
 結句「ここら鳴くらん」の「ここら」は、たくさん、こんなにも、の意、「らん」は原因を推量する助動詞で、こんなにも鳴いているのだろう、の意である。

きやどる:やって来て宿る
まつむし:秋に鳴く虫、ここでは「松」に「待つ」を掛ける
作者
紀貫之
出典
後撰和歌集
前の歌
来むと言ひしほどや過ぎぬる秋の野に 誰松虫ぞ声の悲しき
次の歌
秋風のやや吹きしけば野を寒み わびしき声に松虫ぞ鳴く