来むと言ひしほどや過ぎぬる秋の野に
誰松虫ぞ声の悲しき
- 歌の意味
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来ようと言った頃が過ぎてしまったのだろうか。秋の野で、誰を待つという松虫なのか、声が悲しいことだ。
- 鑑賞
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巻第五 秋歌上 259
詞書「題しらず」
来ようと約束した頃が過ぎてしまったのだろうか、秋の野で、誰を待つ松虫なのか、その声が悲しいと詠んだ歌である。「松虫」に「待つ」を響かせ、約束の時を過ぎても来ない人を待つ女の嘆きを、虫の声に託している。
本巻の第二百五十四首から第二百六十一首までは、紀貫之の「題しらず」の歌が八首続き、ひぐらし、きりぎりす、松虫と、秋の虫の声を順に詠んでいる。
作者の「つらゆき」は紀貫之である。紀望行の子で、古今和歌集の撰者の中心となり、仮名序を書いた。土佐守などを務め、土佐日記の作者としても知られる。三十六歌仙の一人である。
初句「来むと言ひし」の「む」は意志、「し」は過去の助動詞「き」の連体形で、来ようと言った、の意である。
二句「ほどや過ぎぬる」の「や」は疑問の係助詞で、連体形「ぬる」と係り結びをなし、頃が過ぎてしまったのだろうか、の意である。ここで句切れとなる。
三句「秋の野に」は、秋の野で、の意である。次歌の第二百六十首も初句に「秋の野に」を置いている。
四句「誰松虫ぞ」は、誰を待つ松虫なのか、の意で、「松」に「待つ」を掛けている。「ぞ」は係助詞である。次歌の第二百六十首も「誰を松虫」と同じ趣向を用いている。
結句「声の悲しき」は、声が悲しいことだ、の意で、四句の「ぞ」と連体形「悲しき」が係り結びをなしている。
まつむし:秋に鳴く虫、ここでは「松」に「待つ」を掛ける
- 作者
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紀貫之
- 出典
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後撰和歌集
- 前の歌
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わがごとく物や悲しききりぎりす 草の宿りに声絶えず鳴く
- 次の歌
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秋の野に来宿る人もおもほえず 誰を松虫ここら鳴くらん