藤袴着る人なみや立ちながら
時雨の雨に濡らしそめつる
- 歌の意味
-
藤袴を着る人がいないからだろうか、野に立ったままで、時雨の雨に濡らされ、色も染められはじめたことだ。
- 鑑賞
-
巻第七 秋歌下 351
詞書「題しらず」
藤袴を着る人がいないので、藤袴は野に立ったまま、時雨に濡らされ染められはじめたのだろうかと詠んだ歌である。花の名の「袴」を衣に見立て、着る人もなく雨に濡れる藤袴のさびしさを表している。
本巻の巻頭歌で、秋の草花に晩秋の時雨を配し、深まっていく秋の季節を示している。巻末の第四百四十二首は九月の晦日に去りゆく秋を詠んでおり、時雨に始まった巻が秋の終わりで閉じられている。
作者は「よみ人しらず」で、詠み手の名は伝わらない。原文の作者表記は「よみ人も」とあるが、ここでは「よみ人しらず」として扱う。
初句「藤袴」は、秋の七草の一つで、名に「袴」を含むことから、衣に見立てて詠まれている。
二句「着る人なみや」の「なみ」は、ないので、の意のミ語法で、「や」は疑問の係助詞である。着る人がいないからだろうか、の意である。
三句「立ちながら」は、野に立ったままで、の意で、袴を裁つ意を響かせ、「着る」の縁語となっている。
四句「時雨の雨に」は、晩秋から初冬に降ったりやんだりする時雨の雨に、の意である。
結句「濡らしそめつる」の「そめ」は、濡らし「初め」の意と、色を「染め」の意を掛けた掛詞である。二句の「や」と連体形「つる」が係り結びをなしている。
ふぢばかま:秋の七草の一つ、名に「袴」を含むことから衣に見立てて詠まれる
そむ:濡らし「初む」意と、色を「染む」意を掛ける
しぐれ:晩秋から初冬にかけて降ったりやんだりする雨
- 作者
-
よみ人しらず
- 出典
-
後撰和歌集
- 前の歌
-
女郎花折りも折らずもいにしへを さらにかくべきものならなくに
- 次の歌
-
秋風にあひとしあへば花すすき いづれともなくほにぞ出でける