古典和歌stream

物思ふと月日のゆくも知らざりつ
雁こそ鳴きて秋と告げつれ

歌の意味
物思いにふけって、月日が過ぎていくのも気づかなかった。雁が鳴いて、秋になったと告げたことだ。
鑑賞
巻第七 秋歌下 358

詞書「題しらず」
 物思いにふけるあまり、月日が過ぎていくのにも気づかなかったが、雁が鳴いて秋になったと告げてくれたと詠んだ歌である。季節の移り変わりさえ忘れるほどの深い物思いを表している。
 前歌までが雁の声を待ち受けて聞いていたのに対し、本歌は思いがけず雁の声に秋を知らされている。
 作者は「よみ人しらず」で、詠み手の名は伝わらない。
 なお本文の結句は「秋と告げつれ」とあり、読み仮名の行の「あきとつけけれ」と一致しない。ここでは本文の表記に従う。

 初句「物思ふと」は、物思いにふけるとて、の意である。
 二句「月日のゆくも」は、月日が過ぎていくのも、の意である。
 三句「知らざりつ」の「つ」は完了の助動詞で、気づかなかった、の意である。ここで句切れとなる。
 四句「雁こそ鳴きて」の「こそ」は強めの係助詞で、ほかならぬ雁が鳴いて、の意である。
 結句「秋と告げつれ」の「つれ」は完了の助動詞「つ」の已然形で、四句の「こそ」と係り結びをなし、秋だと告げたことだ、の意である。

ものおもふ:思い悩む、物思いにふける
作者
よみ人しらず
出典
後撰和歌集
前の歌
秋風に雲飛びわけて来る雁の 千世に変はらぬ声聞こゆなり
次の歌
雁がねの鳴きつるなへに唐衣 たつたの山は紅葉しにけり