浅してふことをゆゆしみ山の井は
掘りし濁りに影は見えぬぞ
- 歌の意味
-
浅いと言われることを忌まわしく思って、山の井を深く掘ったので、その濁りのために、姿が映って見えないのだ。
- 鑑賞
-
巻第九 恋歌一 531
詞書「返し」
浅いと言われるのが忌まわしいので山の井を深く掘ったところ、その濁りのために影が見えないのだ、と詠んだ歌である。前歌の山の井のたとえを受け、心が浅いのではなく、深くしようとしたために便りが途絶えたのだと言い返している。
前歌の紀乳母の歌への返歌である。前歌の「影」「山の井」「浅き」を受けて、「浅し」「山の井」「影は見えぬ」と返している。
作者の平定文は、平好風の子で、平中とも呼ばれた。色好みとして知られ、『平中物語』の主人公とされる。中古三十六歌仙の一人である。
初句「浅してふ」は、浅いという、の意で、前歌の四句「浅きより」を受けている。
二句「ことをゆゆしみ」は、ことを忌まわしく思うので、の意で、「~を~み」の形で理由を表している。
三句「山の井は」は、山中の浅い井戸は、の意で、前歌の三句と同じ句である。
四句「掘りし濁りに」は、深く掘った濁りのために、の意である。
結句「影は見えぬぞ」は、姿が見えないのだ、の意で、前歌の初句と二句「影だにも見えず」を受けている。
やまのゐ:山中の湧き水をためた浅い井戸
にごり:水が濁ること
- 作者
-
平定文
- 出典
-
後撰和歌集
- 前の歌
-
影だにも見えずなりゆく山の井は 浅きよりまた水や絶えにし
- 次の歌
-
幾度か生田の浦に立ち帰り 浪に我が身をうち濡らすらん