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あだにこそ散ると見るらめ君にみな
うつろひにたる花の心を

歌の意味
あなたは、はかなく散ってしまったと見ているのでしょうが、すべてあなたのほうへ移ってしまった花の心であるのに。
鑑賞
巻第九 恋歌一 541

詞書「返し」
 あなたは私の心がはかなく散ったと見ているのだろうが、花の心はすべてあなたへと移っているのに、と詠んだ歌である。前歌で心が離れたと言われたのに対し、心はむしろすべて相手に移っていると切り返している。
 前歌への返歌である。前歌の「花の心」を受けて結句に「花の心を」と置き、色が「うつろふ」ことを、心が相手へ「移る」ことに転じている。
 作者は「よみ人しらず」で、詠み手の名は伝わらない。原文の作者表記は「よみ人も」とあるが、ここでは「よみ人しらず」として扱う。

 初句「あだにこそ」は、はかなく、むなしく、の意で、「こそ」は強めの係助詞である。
 二句「散ると見るらめ」は、散ったと見ているのだろう、の意で、初句の「こそ」を受けて已然形「らめ」で結び、逆接で下に続いている。
 三句「君にみな」は、あなたのほうへすべて、の意である。
 四句「うつろひにたる」の「うつろふ」は、花の色があせる意と、心が相手へ移る意を重ねている。
 結句「花の心を」は、花の心であるのに、の意で、前歌の二句「花の心は」を受けている。

うつろふ:色があせる、心が移る
作者
よみ人しらず
出典
後撰和歌集
前の歌
かれ果つる花の心はつらからで 時過ぎにける身をぞ恨むる
次の歌
来んと言ひし月日を過ぐす姨捨の 山の端つらきものにぞありける