山里の槙の板戸もささざりき
頼めし人を待ちし宵より
- 歌の意味
-
山里の槙の板戸も閉ざさなかった。来ると約束して頼みにさせた人を待っていた宵からずっと。
- 鑑賞
-
巻第九 恋歌一 589
詞書「男の来むとて来ざりければ」
山里の槙の板戸も閉めずにいた、来ると約束した人を待った宵からずっと、と詠んだ歌である。来なかった男を、戸を開けたまま一夜待ち明かした女の思いを表している。
詞書によれば、男が来ると言いながら来なかったので詠んだ歌である。戸を閉ざさずに待ち続けたことを述べるだけで、待ちわびた夜の長さを伝えている。
作者は「よみ人しらず」で、詠み手の名は伝わらない。原文の作者表記は「よみ人も」とあるが、ここでは「よみ人しらず」として扱う。
初句「山里の」は、山里の、の意である。
二句「槙の板戸も」は、槙の木で作った板戸も、の意である。
三句「ささざりき」は、閉ざさなかった、の意で、「き」は過去の助動詞である。ここで句切れとなる。
四句「頼めし人を」は、来ると約束して頼みにさせた人を、の意である。
結句「待ちし宵より」は、待っていた宵からずっと、の意で、三句と倒置の関係にある。
まき:杉や檜などの良質な木
いたど:板で作った戸
さす:戸を閉ざす
- 作者
-
よみ人しらず
- 出典
-
後撰和歌集
- 前の歌
-
見る時はことぞともなく見ぬ時は こと有り顔に恋しきやなぞ
- 次の歌
-
行く方もなくせかれたる山水の いはまほしくも思ほゆるかな