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行く方もなくせかれたる山水の
いはまほしくも思ほゆるかな

歌の意味
行き場もなくせき止められた山の水が岩の間にたまるように、思いを打ち明けたいと思われることだ。
鑑賞
巻第九 恋歌一 590

詞書「初めて女のもとにつかはしける」
 行き場もなくせき止められた山の水が岩間にたまるように、思いを打ち明けたいと思う、と詠んだ歌である。抑えてきた恋心を、せき止められた山水にたとえ、初めて打ち明ける気持ちを伝えている。
 詞書によれば、初めて女のもとへ送った歌である。
 作者は「よみ人しらず」で、詠み手の名は伝わらない。原文の作者表記は「よみ人も」とあるが、ここでは「よみ人しらず」として扱う。

 初句「行く方も」は、流れていく先も、の意である。
 二句「なくせかれたる」は、なくせき止められた、の意である。
 三句「山水の」は、山を流れる水の、の意で、初句から三句までが四句の「いはま」を導く序詞となっている。
 四句「いはまほしくも」は、水がたまる「岩間」と、言いたい、の意の「言はまほし」を掛けた掛詞である。
 結句「思ほゆるかな」は、自然に思われることだ、の意で、本巻の第五百七十三首の結句と同じ句である。

せく:水の流れをせき止める
いはま:「岩間」の意と、言いたい意の「言はまほし」を掛ける
作者
よみ人しらず
出典
後撰和歌集
前の歌
山里の槙の板戸もささざりき 頼めし人を待ちし宵より
次の歌
人の上のこととし言へば知らぬかな 君も恋する折もこそあれ