逢ふことはとほ山鳥の狩衣
きてはかひなき音をのみぞ泣く
- 歌の意味
-
逢うことは遠い。その遠山鳥の模様を摺った狩衣を、着てみても、また訪ねて来てみても甲斐はなく、山鳥のように声をあげて泣いてばかりいる。
- 鑑賞
-
巻第十 恋歌二 679
詞書「忍びて通ひ侍りける女のもとより、狩装束送りて侍りけるに、摺れる狩衣侍りけるに」
逢うことは遠い、その遠山鳥を摺った狩衣を着ても、訪ねて来ても甲斐はなく泣いてばかりいる、と詠んだ歌である。女から贈られた狩衣の模様にちなみ、なかなか逢えない嘆きを訴えている。
詞書によれば、ひそかに通っていた女のもとから狩装束が贈られ、その中に模様を摺った狩衣があったので詠んだ歌である。山鳥は雌雄が峰を隔てて寝るとされ、逢えない恋のたとえとして詠まれる。
作者の「もとよしのみこ」は元良親王である。陽成天皇の第一皇子で、恋多き人物として知られる。小倉百人一首には「わびぬれば今はた同じ難波なる」の歌が採られている。
初句「逢ふことは」は、逢うことは、の意である。
二句「とほ山鳥の」の「とほ」は、逢うことが「遠」い意と、狩衣に摺られた「遠山鳥」を掛けた掛詞である。
三句「狩衣」は、狩りなどに着る衣で、詞書の贈られた狩衣を指している。
四句「きてはかひなき」の「き」は、衣を「着」る意と、「来」る意を掛けた掛詞で、着ても来ても甲斐がない、の意である。
結句「音をのみぞ泣く」は、声をあげて泣いてばかりいる、の意で、山鳥の鳴く声を重ねている。「ぞ」は強めの係助詞で、連体形「泣く」で結ぶ係り結びとなっている。
とほ:逢うことが「遠」い意と、「遠山鳥」を掛ける
やまどり:雉に似た鳥、雌雄が峰を隔てて寝るとされる
く:衣を「着」る意と、「来」る意を掛ける
かりさうぞく:狩りの装束
- 作者
-
元良親王
- 出典
-
後撰和歌集
- 前の歌
-
思ひやる心に類ふ身なりせば 一日に千たび君は見てまし
- 次の歌
-
深くのみ思ふ心は葦の根の わけても人に逢はんとぞ思ふ