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あひ見ては慰むやとぞ思ひしに
なごりしもこそ恋しかりけれ

歌の意味
逢ったならば心が慰むだろうかと思っていたのに、逢った後の名残こそが、かえって恋しくてならないのだ。
鑑賞
巻第十一 恋歌三 794

詞書「人のもとより帰りまで来てつかはしける」
 逢えば心が慰むかと思っていたのに、名残こそかえって恋しい、と詠んだ歌である。逢うことで満たされると思っていた恋心が、別れた後の名残によっていっそう募ることを述べている。
 詞書によれば、恋人のもとから帰って来て送った歌である。恋歌三の巻末歌で、巻頭の第七百首が人に知られずに逢いに来る手だてを願ったのに対し、本歌は逢った後になお募る恋しさで巻を閉じている。
 作者の「坂上これのり」は坂上是則である。坂上田村麻呂の子孫で、加賀介などを務めた。三十六歌仙の一人で、小倉百人一首には「朝ぼらけ有明の月と見るまでに」の歌が採られている。

 初句「あひ見ては」は、逢ったならば、の意である。本巻の第七百二十八首、第七百九十首の初句「あひ見ても」と同じく、逢った後の思いを詠んでいる。
 二句「慰むやとぞ」は、慰むだろうかと、の意で、「や」は疑問、「ぞ」は強めの係助詞である。
 三句「思ひしに」は、思っていたのに、の意である。
 四句「なごりしもこそ」は、名残こそが、の意で、「しも」は強め、「こそ」は強めの係助詞である。本巻の第七百十首の結句にも「なごり」が詠まれている。
 結句「恋しかりけれ」は、恋しいことだ、の意で、四句の「こそ」を受けて已然形「けれ」で結ぶ係り結びとなっている。

なごり:物事が過ぎ去った後に残る影響や余韻
なぐさむ:心が晴れる、気が紛れる
作者
坂上是則
出典
後撰和歌集
前の歌
これを見よ人もすさめぬ恋すとて 音を泣く虫のなれる姿を
次の歌
わが恋の数をかぞへば天の原 曇りふたがり降る雨のごと