かくばかり深き色にもうつろふを
なほ君きくの花と言はなん
- 歌の意味
-
これほど深い色にまで移り変わったのだから、それでもやはりあなたは、聞き入れるという名の菊の花だと言ってほしい。
- 鑑賞
-
巻第十三 恋歌五 963
詞書「年を経て語らふ人のつれなくのみ侍りければ、うつろひたる菊につけてつかはしける」
これほど深い色に移ろったのだから、やはりあなたは聞き入れるという菊の花だと言ってほしい、と詠んだ歌である。霜にあって紫に色を深めた菊に、年月とともに深まった自分の思いを重ね、せめて「聞く」と応じてほしいと願っている。
詞書によれば、長年言い寄っていた人がつれないばかりだったので、色の移ろった菊に結びつけて送った歌である。菊の名に「聞く」を掛け、贈る花そのものに願いを託している。
作者の「きよかげの朝臣」は源清蔭である。陽成天皇の皇子で、臣籍に下って源の姓を賜り、大納言に至った。
初句「かくばかり」は、これほどまでに、の意である。
二句「深き色にも」は、深い色にまで、の意で、菊の色の深まりに思いの深さを重ねている。
三句「うつろふを」は、移り変わったのに、の意で、霜にあって白菊が紫に色を変えることをいう。
四句「なほ君きくの」は、それでもあなたは菊の、の意で、「きく」に花の「菊」と、願いを「聞く」を掛けている。
結句「花と言はなん」は、花だと言ってほしい、の意で、「なん」は他に対する願望を表す終助詞「なむ」である。
うつろふ:色が変わる、色があせる
きく:花の「菊」と、願いを「聞く」を掛ける
- 作者
-
源清蔭
- 出典
-
後撰和歌集
- 前の歌
-
もろともにいざと言はずは死出の山 越ゆとも越さむものならなくに
- 次の歌
-
いさやまだ人の心もしら露の おくにもとにも袖のみぞひつ