古典和歌stream

いさやまだ人の心もしら露の
おくにもとにも袖のみぞひつ

歌の意味
さあどうだか、まだあなたの心もわからない。白露が置くように、簾の奥にいても外にいても、私の袖ばかりが涙に濡れることだ。
鑑賞
巻第十三 恋歌五 964

詞書「人のもとにまかりたりけるに、門よりのみ返しけるに、からうして簾のもとに呼び寄せて、かうてさへや心ゆかぬ、と言ひ出だしたりければ」
 さあどうだか、まだあなたの心もわからない、簾の奥にいても外にいても袖ばかり濡れる、と詠んだ歌である。ようやく簾のそばまで呼び寄せられたものの、相手の本心がわからないままで涙が尽きないと訴えている。
 詞書によれば、女のもとへ行っても門から帰されてばかりいたが、やっと簾のそばに呼び寄せられ、女から「こうしてもまだ満足しないのか」と言われたので答えた歌である。白露に寄せる点では本巻の第八百九十三首とも共通している。
 作者は「よみ人しらず」で、詠み手の名は伝わらない。

 初句「いさやまだ」は、さあどうだか、まだ、の意で、「いさ」は判断を保留する語である。
 二句「人の心も」は、あなたの心も、の意である。
 三句「しら露の」は、白露が置くように、の意で、「しら」に「知ら(ず)」と「白露」を掛け、四句の「おく」を導いている。
 四句「おくにもとにも」は、奥にも外にも、の意で、「おく」に露が「置く」と簾の「奥」を掛け、「と」は外を表している。
 結句「袖のみぞひつ」は、袖ばかりが濡れる、の意で、「ぞ」は強めの係助詞で、連体形「ひつ」で結ぶ係り結びとなっている。

しら:「知ら(ず)」と、「白露」の「白」を掛ける
おく:露が「置く」と、簾の「奥」を掛ける
と:外、外側
ひつ:濡れる、水につかる
作者
よみ人しらず
出典
後撰和歌集
前の歌
かくばかり深き色にもうつろふを なほ君きくの花と言はなん
次の歌
寄る潮のみちくる空もおもほえず あふことなみに帰ると思へば