河とのみ渡るを見るに慰まで
苦しきことぞいやまさりなる
- 歌の意味
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あなたが川を渡るようにただ通り過ぎて行くばかりなのを見ると、心が慰められず、苦しいことがますますつのるばかりだ。
- 鑑賞
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巻第十三 恋歌五 992
詞書「又、返し」
川を渡るようにただ通り過ぎて行くのを見ると、心が慰められず、苦しさがますますつのる、と詠んだ歌である。前歌で思いの浅さを疑われたのに対し、自分のもとをただ通り過ぎるだけの相手こそつれないと、苦しみを訴えている。
詞書によれば、前歌を受けて、女がまた返した歌である。それまでの火の縁語から、河と渡るという水の景物へと移り、次歌の第九百九十三首の水と瀬へと受け継がれていく。
作者は「よみ人しらず」で、詠み手の名は伝わらない。
初句「河とのみ」は、川としてばかり、の意で、川を渡るように通り過ぎるばかりであることを表している。
二句「渡るを見るに」は、渡って行くのを見ると、の意で、男が自分のもとを素通りすることを重ねている。
三句「慰まで」は、心が慰められないで、の意で、「で」は打消しの接続助詞である。
四句「苦しきことぞ」は、苦しいことが、の意で、「ぞ」は強めの係助詞である。
結句「いやまさりなる」は、ますますつのることだ、の意で、四句の「ぞ」を受けて連体形「なる」で結ぶ係り結びとなっている。「まさる」は次歌の「水まさる」へと受け継がれている。
なぐさむ:心が慰められる、気が晴れる
いやまさり:ますます増さること
- 作者
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よみ人しらず
- 出典
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後撰和歌集
- 前の歌
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上にのみおろかに燃ゆる蚊遣り火の よにもそこにはおもひこがれじ
- 次の歌
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水まさる心地のみしてわがために うれしき瀬をば見せじとやする