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上にのみおろかに燃ゆる蚊遣り火の
よにもそこにはおもひこがれじ

歌の意味
表面だけでいいかげんに燃える蚊遣り火のように、あなたは心の底では決して思い焦がれてはいないのだろう。
鑑賞
巻第十三 恋歌五 991

詞書「又、男」
 表面だけでいいかげんに燃える蚊遣り火のように、あなたは底では決して思い焦がれていないだろう、と詠んだ歌である。前歌で身も焦がれると言った女に対し、それは煙ばかりで表だけ燃える蚊遣り火のようなもので、心の底からではあるまいと疑っている。
 詞書によれば、前歌の返しを受けて、男がまた送った歌である。前歌の「こがれ」を受け、火の縁語を蚊遣り火に移して贈答を続けている。
 作者は「よみ人しらず」で、詠み手の名は伝わらない。

 初句「上にのみ」は、表面だけで、の意で、四句の「そこ」と対になっている。
 二句「おろかに燃ゆる」は、いいかげんに燃える、の意である。
 三句「蚊遣り火の」は、蚊を追い払うためにいぶす火の、の意で、表面だけくすぶって燃える火として女の思いをたとえている。
 四句「よにもそこには」は、決して底では、の意で、「よにも」は打消しと呼応して強める語である。「そこ」に火の「底」と、相手を指す「其処(そこ)」を掛けている。
 結句「おもひこがれじ」は、思い焦がれてはいないだろう、の意で、「おもひ」の「ひ」に「火」を掛け、「じ」は打消しの推量を表している。前歌の「こがれ」を受けている。

かやりび:蚊を追い払うために草などをいぶす火
そこ:火の「底」と、相手を指す「其処(そこ)」を掛ける
おもひ:「思ひ」の「ひ」に「火」を掛ける
作者
よみ人しらず
出典
後撰和歌集
前の歌
消えずのみ燃ゆるおもひは遠けれど 身もこがれぬるものにぞありける
次の歌
河とのみ渡るを見るに慰まで 苦しきことぞいやまさりなる