古典和歌stream

渡りてはあだになるてふ染河の
心づくしになりもこそすれ

歌の意味
渡ってしまえば心が浮わついてしまうという染川だから、筑紫の名のように、気をもむばかりの心尽くしになりはしないかと案じられる。
鑑賞
巻第十四 恋歌六 1047

詞書「返し」
 渡ってしまえば浮気になるという染川だから、気をもむばかりの心づくしになるのではないか、と詠んだ歌である。前歌の「筑紫」「染河」「渡り」を受け、恋を遂げたとたんに男の心が移ろい、自分が気をもむことになるのを恐れている。
 詞書によれば、前歌の第千四十六首への女の返しである。前歌が渡れば思いが増すと詠んだのに対し、渡れば心が浮つくと反対の方向に読み替えて切り返している。
 作者は「よみ人しらず」で、詠み手の名は伝わらない。

 初句「渡りては」は、渡ってしまったら、の意で、前歌の三句「渡りなば」を受けている。
 二句「あだになるてふ」は、浮気になるという、の意で、「あだ」は心が変わりやすく誠実でない意である。
 三句「染河の」は、筑前国の染川の、の意で、前歌の二句を受け、色に染まることから心変わりを連想させている。
 四句「心づくしに」は、心尽くしに、の意で、「づくし」に地名の「筑紫」と、気をもむ意の「心尽くし」を掛け、前歌の初句「筑紫なる」を受けている。
 結句「なりもこそすれ」は、なりはしないか、の意で、「もこそ」は悪い事態を危ぶむ気持ちを表し、已然形「すれ」で結ぶ係り結びとなっている。

あだ:心が変わりやすく誠実でないこと
こころづくし:あれこれと気をもむこと。「筑紫」を掛ける
作者
よみ人しらず
出典
後撰和歌集
前の歌
筑紫なる思ひそめ河渡りなば 水やまさらんよどむ時なく
次の歌
花盛り過ぐしし人はつらけれど 言の葉をさへ隠しやはせん