翁さび人なとがめそ狩衣
今日ばかりとぞたづも鳴くなる
- 歌の意味
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年寄りらしく振る舞うのを、人よ、とがめないでくれ。狩衣を着てお供をするのも今日限りだと、鶴も鳴いているようだ。
- 鑑賞
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巻第十五 雑歌一 1076
詞書「同じ日、鷹飼にて、狩衣の袂に鶴の形を縫ひて書きつけたりける/行幸の又の日なん致仕の表奉りける」
年寄りじみていると人よとがめないでほしい、狩衣を着て仕えるのも今日限りだと鶴も鳴いている、と詠んだ歌である。老いの身で鷹飼として供をする面映ゆさを詫びつつ、これを最後に官を退く覚悟を、袂に縫った鶴の声に託している。
詞書によれば、前歌と同じ芹川行幸の日に、鷹飼として供をした行平が、狩衣の袂に鶴の形を縫い、そこに書きつけた歌である。行幸の翌日に致仕の表、つまり官を退くことを願い出る文書を奉ったとあり、「今日ばかり」の語が引退の決意を示している。
前歌が嵯峨天皇の昔をしのんで行幸の再興を祝うのに対し、本歌は自らの老いを詠み、帝の晴れの行幸と老臣の退場とが対をなしている。伊勢物語第百十四段にも、仁和の帝の芹川行幸に鷹飼として仕えた翁の歌として、ほぼ同じ形で見える。
作者の在原行平は、平城天皇の皇子阿保親王の子で、在原業平の異母兄にあたる。中納言に至り、一族の子弟のために奨学院を設けた。
初句「翁さび」は、老人らしく振る舞うこと、の意で、「さぶ」はそれらしい様子を見せる意を表す。老いた身で晴れの行幸に供をする自分を言い表している。
二句「人なとがめそ」は、人よ、とがめないでくれ、の意で、「な〜そ」は禁止を表す。ここで句切れとなる。
三句「狩衣」は、鷹狩などに着る衣で、鷹飼として仕える装束を示している。詞書の鶴の縫い取りもこの狩衣の袂にあった。
四句「今日ばかりとぞ」は、今日限りだと、の意で、「ぞ」は強意の係助詞で、結句の連体形「なる」で結ぶ係り結びとなっている。翌日に致仕の表を奉った決意がここにこめられている。
結句「たづも鳴くなる」は、鶴も鳴いているようだ、の意で、「たづ」は鶴の歌語、「なる」は音に聞く推定の助動詞「なり」の連体形で、四句の「ぞ」を受けて結んでいる。袂に縫った鶴が自分に代わって鳴くと見立て、老いの身の思いを託している。
おきなさぶ:老人らしく振る舞う
かりごろも:鷹狩などの際に着る衣服
たづ:鶴の歌語
ちじ:官職を退くこと
- 作者
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在原行平
- 出典
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後撰和歌集
- 前の歌
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嵯峨の山行幸絶えにし芹川の 千代の古道跡はありけり
- 次の歌
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今までになどかは花の咲かずして 四十年あまり年切りはする