音に聞く松が浦島今日ぞ見る
むべも心あるあまは住みけり
- 歌の意味
-
噂に聞いていた松が浦島を、今日こそ見ることだ。なるほど、情趣を解する海人、いや尼が住んでいたのだなあ。
- 鑑賞
-
巻第十五 雑歌一 1093
詞書「西院の后、御髪下ろさせ給ひて行はせ給ひける時、かの院の中島の松を削りて書きつけ侍りける」
噂に聞く松が浦島を今日こそ見た、なるほど心ある海人、すなわち尼が住んでいたのだ、と詠んだ歌である。西院の庭の中島の松を名所の松が浦島に見立て、「あま」に海人と尼を掛けて、出家した后の暮らしをたたえている。
詞書によれば、西院の后が出家して仏道修行をしていた時、その院の池の中島の松を削って書きつけた歌である。西院の后は、淳和天皇の皇后正子内親王を指すとされる。
作者の素性法師は、僧正遍昭の子で、出家して雲林院などに住んだ。三十六歌仙の一人に数えられる。
初句「音に聞く」は、噂に聞いている、の意である。
二句「松が浦島」は、陸奥国の歌枕の松が浦島で、院の中島の松をこの名所に見立てている。
三句「今日ぞ見る」は、今日こそ見る、の意で、「ぞ」は強意の係助詞で、連体形「見る」で結ぶ係り結びとなっている。ここで句切れとなる。
四句「むべも心ある」は、なるほど情趣を解する、の意で、「むべ」は納得する気持ちを表す。
結句「あまは住みけり」は、海人が住んでいたのだなあ、の意で、「あま」に浦島の縁の海人と、出家した后を指す尼を掛けている。「けり」は気づきの詠嘆を表す。
まつがうらしま:陸奥国の歌枕
あま:海で漁をする海人と、出家した女性の尼を掛ける
おこなふ:仏道の修行をする
- 作者
-
素性法師
- 出典
-
後撰和歌集
- 前の歌
-
この御幸千歳かへても見てしかな かかる山伏時に逢ふべく
- 次の歌
-
我のみは立ちも帰らぬ暁に わきても置ける袖の露かな