古典和歌stream

ひぐらしの声を恋しみ消ぬべくは
み山通りにはやも来ねかし

歌の意味
ひぐらしの声が恋しくて消え入ってしまいそうだというのなら、奥深い山を通って、早く来てほしいものだ。
鑑賞
巻第十六 雑歌二 1128

詞書「返し」
 ひぐらしの声が恋しくて消え入りそうだというのなら、山を通って早く来てほしい、と詠んだ歌である。前歌の句をほとんどそのまま受けながら、恋しいならば戻って来ればよいと、相手を呼び戻す言葉で切り返している。
 前歌の宣旨の歌に対する時平の返しである。
 作者の「贈太政大臣」は藤原時平である。藤原基経の長男で、左大臣に至り、没後に太政大臣を贈られたためこう呼ばれる。菅原道真を大宰府に左遷したことで知られる。

 初句「ひぐらしの」は、前歌の三句をそのまま受けている。
 二句「声を恋しみ」は、声が恋しいので、の意で、前歌の四句と同じ句である。
 三句「消ぬべくは」は、消えてしまいそうだというのなら、の意で、前歌の結句「今も消ぬべし」を受けて仮定の形にしている。
 四句「み山通りに」は、奥深い山を通って、の意で、前歌の初句「み山より」に応じ、ひぐらしの鳴く山を通り道としている。
 結句「はやも来ねかし」は、早く来てほしいものだ、の意で、「来ね」は完了の助動詞「ぬ」の命令形を添えた形、「かし」は念を押す終助詞である。

く:消える。消え入る
ひぐらし:蝉の一種。カナカナと鳴く
作者
藤原時平
出典
後撰和歌集
前の歌
み山より響き聞こゆるひぐらしの 声を恋しみ今も消ぬべし
次の歌
誓はれし賀茂の河原に駒とめて しばし水飼へ影をだに見む