雲路をも知らぬ我さへもろ声に
今日ばかりとぞなきかへりぬる
- 歌の意味
-
雲の通い路も知らない私までもが、空を帰ってゆく鳥と声を合わせて、今日限りと思って、繰り返し泣いたことだ。
- 鑑賞
-
巻第十八 雑歌四 1276
詞書「題しらず」
雲路も知らない私までが、声を合わせて今日限りと泣き返った、と詠んだ歌である。空を渡って帰る鳥のように別れゆく人を見送り、空の道も知らない自分までが共に声をあげて泣いたと、別れの悲しみを詠んでいるとみられる。
作者は「よみ人しらず」で、詠み手の名は伝わらない。
初句「雲路をも」は、雲の中の通い路も、の意で、空を渡る鳥の道をいう。巻第十七の第千二百二十二首も、鳥の行き交う「雲路」を詠んでいる。
二句「知らぬ我さへ」は、知らない私までが、の意で、「さへ」は添加を表す。空を渡る鳥とは違う身であることをいう。
三句「もろ声に」は、声を合わせて、の意である。
四句「今日ばかりとぞ」は、今日限りと、の意で、「ぞ」は強意の係助詞である。
結句「なきかへりぬる」の「なき」は、鳥が「鳴き」と人が「泣き」を掛けた掛詞で、繰り返し泣いた、の意に、鳥が「帰る」意を響かせている。四句の「ぞ」を受けて連体形「ぬる」で結ぶ係り結びとなっている。
くもぢ:雲の中の通い路
もろごゑ:声を合わせること
なきかへる:「鳴き」の意と「泣き」を掛け、繰り返し泣く意に「帰る」を響かせる
- 作者
-
よみ人しらず
- 出典
-
後撰和歌集
- 前の歌
-
身の憂きを知ればはしたになりぬべみ 思ひは胸のこがれのみする
- 次の歌
-
まだきから思ひ濃き色に染めむとや 若紫のねを尋ぬらん