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もち月の駒より遅く出でつれば
たどるたどるぞ山は越えつる

歌の意味
望月の駒よりも遅れて出発したので、道をたどりたどりしながら山を越えてきたことだ。
鑑賞
巻第八 雑歌上 438

詞書「花山にまかりて侍りけるに、駒牽の御馬を遣はしたりければ」
 望月の駒よりも遅れて出たので、たどりたどり山を越えてきたと詠む歌である。詞書から、花山に出かけていた時に駒牽の御馬を遣わされたことに応じた歌とわかる。駒牽で名高い望月の駒に、遅く昇る望月を重ね、暗い山道を手探りで越えてきた苦労をおどけて表している。月の歌群の中にあって、月の名を持つ駒を詠み込んでいる。
 作者の「素性法師」は、僧正遍昭の子で、平安時代前期の歌人である。父の勧めで出家し、雲林院に住んだ。三十六歌仙に数えられる。

 初句「もち月の」は、信濃国の望月の牧の、の意で、駒牽に献上される名馬の産地をいう。同時に陰暦十五夜の満月を掛けた掛詞である。
 二句「駒より遅く」は、駒よりも遅れて、の意で、遅く昇る月の連想を響かせている。
 三句「出でつれば」は、出発したので、の意で、「つれ」は完了の助動詞「つ」の已然形、「ば」は理由を表す。
 四句「たどるたどるぞ」は、道をたどりたどりしながら、の意で、同じ語を重ねて山道の難儀を表している。「ぞ」は強意の係助詞である。
 結句「山は越えつる」は、山を越えてきたことだ、の意で、係助詞「ぞ」を受けて連体形の「つる」で結んでいる。

もちづき:信濃国の望月の牧と、陰暦十五夜の満月を掛ける
こまひき:駒牽。毎年八月に諸国の牧から献上された馬を天皇が御覧になる宮中行事
たどる:道を探りながら進む
作者
素性法師
出典
拾遺和歌集
前の歌
雲居にてあひ語らはぬ月だにも 我が宿過ぎて行く時はなし
次の歌
常よりも照りまさるかな山の端の 紅葉を分けて出づる月影