古典和歌stream

かからでもありにしものを白雪の
ひと日もふれば増さる我が恋

歌の意味
こうして恋しく思うこともなく過ごしていたのに、白雪が一日降ればかさが増すように、逢えずに一日経っただけで募っていく私の恋よ。
鑑賞
巻第十二 恋歌二 728

詞書「女にもの言ひはじめて、さはる事侍りてえまからで、言ひつかはし侍りける」
 このように思い悩むこともなく過ごしていたのに、白雪が一日降れば積もり増さるように、逢えずに一日経つだけで募る我が恋よと詠む歌である。詞書から、女に言い寄り始めたものの、差し支えがあって訪ねることができず、言い贈った歌とわかる。「ふれ」に雪が「降れ」と日が「経れ」を掛け、降り積もる雪に日ごとに増す恋心を重ねている。
 作者の在原業平は、平城天皇の皇子阿保親王の子で、六歌仙、三十六歌仙に数えられる。伊勢物語の主人公に擬せられる歌人である。

 初句「かからでも」は、このようでなくても、の意で、思い悩むこともなく、をいう。
 二句「ありにしものを」は、過ごしていたのに、の意で、本巻の第七百十二首と第七百三十二首の二句「ありにしものを」と同じ句である。
 三句「白雪の」は、白雪が、の意で、「降る」を導いている。前歌の第七百二十七首の凍る涙に続き、冬の景物を詠んでいる。
 四句「ひと日もふれば」は、「ふれ」が雪が「降れ」と、日が「経れ」を掛ける掛詞である。
 結句「増さる我が恋」は、募っていく私の恋よ、の意で、雪が積もり増さることを重ね、体言止めで結んでいる。

ふる:雪が「降る」意と、日が「経る」意を掛ける
さはる:障る。差し支える
作者
在原業平
出典
拾遺和歌集
前の歌
君恋ふる涙の凍る冬の夜は 心とけたる寝やは寝らるる
次の歌
朝氷とくる間もなき君により などてそほつる袂なるらん