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忘らるる身をば思はず誓ひてし
人の命の惜しくもあるかな

歌の意味
あなたに忘れられる私の身のことは何とも思わない。けれども、いつまでも変わらないと神に誓ったあなたの命が、誓いを破った罰を受けて失われはしないかと、惜しく思われることだ。
鑑賞
巻第十四 恋歌四 870

詞書は前の歌に続き「題しらず」
 忘れられる自分のことは何とも思わないが、神に永遠の愛を誓ったあなたが、誓いを破った罰で命を落とすのではないかと惜しまれると詠む歌である。心変わりした相手を気遣うようでいて、そこに鋭い皮肉と未練がこめられているとも読め、解釈に幅のある歌として名高い。
 作者の「右近」は、右近少将藤原季縄の娘で、醍醐天皇の中宮穏子に仕えた女房である。藤原敦忠らとの恋の歌が大和物語に伝えられる。
 小倉百人一首に採られ、広く知られている。大和物語にも、この歌をめぐる話が収められている。

 初句「忘らるる」は、忘れられる、の意で、「るる」は受身の助動詞「る」の連体形である。前歌の第八百六十九首の四句「忘るる君が」と、忘れる者と忘れられる者とを詠み分けている。
 二句「身をば思はず」は、我が身のことは何とも思わない、の意である。ここで句切れとなる。
 三句「誓ひてし」は、誓った、の意で、「て」は完了の助動詞「つ」の連用形、「し」は過去の助動詞「き」の連体形である。前歌の「誓ひても」、次歌の第八百七十一首の「誓ひけん」と、誓いの一連をなしている。
 四句「人の命の」は、あなたの命が、の意である。次歌の第八百七十一首の「命をかけて」と、命と誓いを結びつける点を共有している。
 結句「惜しくもあるかな」は、惜しく思われることだ、の意で、「かな」は詠嘆を表す。本巻の巻末の第九百二十四首の結句「惜しけくもなし」が、我が身を惜しまない心で結ぶのと対照をなしている。

ちかふ:誓ふ。神仏にかけて約束する
作者
右近
出典
拾遺和歌集
前の歌
住吉の現人神に誓ひても 忘るる君が心とぞ聞く
次の歌
何せむに命をかけて誓ひけん いかばやと思ふ折もありけり