つらからば人に語らむしきたへの
枕交はして一夜寝にきと
- 歌の意味
-
もしつれなくするならば、人に話してしまおう。枕を交わして一夜共寝をしたと。
- 鑑賞
-
巻第十八 雑賀 1190
詞書「修理大夫惟正が家に方違へにまかりたりけるに、出だして侍りける枕に書きつけ侍りける」
もしつれなくするならば、枕を交わして一夜共寝をしたと人に話してしまおうと詠む歌である。詞書から、方違えのために修理大夫源惟正の家に泊まった際、出された枕に書きつけた歌とわかる。一夜を過ごした枕に向かって、もてなしが冷たければ共寝をしたと言いふらそうと戯れたもので、宿を貸してくれた家への挨拶を機知に富んだ恋歌仕立てにしている。
作者の藤原義孝は、摂政藤原伊尹の子で、右少将を務めたが、二十一歳の若さで世を去った。中古三十六歌仙の一人で、百人一首の「君がため惜しからざりし」の歌で知られる。
初句「つらからば」は、つれなくするならば、の意で、「ば」は未然形について仮定を表す。
二句「人に語らむ」は、人に話してしまおう、の意で、「む」は意志の助動詞である。ここで句切れとなる二句切れの歌で、下の句は話す内容を倒置して示している。
三句「しきたへの」は、「枕」にかかる枕詞である。
四句「枕交はして」は、枕を交わして、の意で、男女が共寝をすることをいう。
結句「一夜寝にきと」は、一夜共寝をしたと、の意で、「に」は完了、「き」は過去の助動詞である。共寝をしたという言いふらしの内容を引用の「と」で結んでいる。
かたたがへ:方違へ。凶の方角を避けるため、前夜に別の所に泊まること
しきたへ:敷妙。寝床に敷く布。「枕」などにかかる枕詞として用いる
- 作者
-
藤原義孝
- 出典
-
拾遺和歌集
- 前の歌
-
唐衣たつより落つる水ならで 我が袖濡らす物や何なる
- 次の歌
-
あやしくも我が濡れ衣を着たるかな 三笠の山を人に借られて