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忍びつつ夜こそきしか唐衣
ひとや見むとは思はざりしを

歌の意味
人目を忍んで夜にこそ通って来て、唐衣を着てきたのに、人に見られようとは、牢獄を見ることになろうとは、思いもしなかったのに。
鑑賞
巻第十九 雑恋 1225

詞書「人の召し侍りける男の獄に侍りて、乳母のもとに遣はしける」
 人目を忍んで夜にこそ通って来たのに、人に見られ、牢獄を見ることになろうとは思わなかったと詠む歌である。詞書から、捕らえられて獄にいる男が、乳母のもとに送った歌とわかる。忍んで通っていたことが露見して捕らえられた身の上を、「来しか」と「着しか」、「人や見む」と「人屋」を掛けて、嘆きながらも機知を交えて詠んでいる。

 初句「忍びつつ」は、人目を避けながら、の意で、「つつ」は反復を表す。
 二句「夜こそきしか」は、「き」が「来」と、唐衣を「着」を掛ける掛詞である。係助詞「こそ」を受けて過去の助動詞「き」の已然形「しか」で結ぶ係り結びで、ここは逆接で下に続いている。
 三句「唐衣」は、中国風の美しい衣、の意で、二句の「着」の縁語となっている。
 四句「ひとや見むとは」は、「ひとや」が「人や見む」と、牢獄の意の「人屋」を掛ける掛詞である。人に見られるだろうとは、牢獄を見ることになろうとは、の二つの意を重ねている。
 結句「思はざりしを」は、思わなかったのに、の意で、「ざり」は打消、「し」は過去の助動詞、「を」は逆接の接続助詞である。

きしか:「来しか」と、唐衣を「着しか」を掛ける
ひとや:人屋。牢獄。「人や見む」を掛ける
めのと:乳母
からころも:唐衣。中国風の美しい衣
作者
よみ人しらず
出典
拾遺和歌集
前の歌
こゆるぎのいそぎて来つるかひもなく またこそ立てれ沖つ白波
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