- 歌の意味
-
春になったので雪の下を流れる水もすっかり解けて、谷の鶯が今まさに鳴いているようだ。
- 鑑賞
-
巻第一 春歌上 5
詞書「承暦二年内裏後番歌合に鶯をよめる」
承暦二年(1078)、白河天皇の内裏で催された歌合の後番で、「鶯」を題として詠んだ歌である。春になって雪の下の水が解けて流れ出すとともに、冬の間谷にこもっていた鶯もいよいよ鳴きはじめたらしい、という春の訪れを詠む。雪解けの水音と鶯の声という二つの音で春を感じとっている。
作者の「藤原顕綱朝臣」は参議藤原兼経の子の藤原顕綱である。讃岐守などを務め、讃岐入道と呼ばれた。讃岐典侍日記の作者藤原長子の父である。
鶯が谷から出て春を告げるという発想は、古今和歌集の大江千里の歌「鶯の谷より出づる声なくは春来ることを誰か知らまし」以来の伝統による。
初句「春立てば」は、已然形に「ば」が付いた確定条件で、春になったので、の意である。
二句「雪の下水」は、積もった雪の下を流れる解け水をいう。前々歌の第二首と同じ語を用い、雪解けの水が春を告げる趣向を共有する。
三句「うち解けて」の「うち」は語調を整える接頭語で、氷や雪がすっかり解けることをいう。凍っていたものが解けるさまに、冬の閉ざされた気分がほどける心持ちも重なる。
四句「谷の鶯」は、冬の間谷にこもっていたとされる鶯で、春になると谷を出て鳴くと考えられた。
結句「今ぞ鳴くなる」の「ぞ」は係助詞で、推定の助動詞「なり」の連体形「なる」と係り結びをなす。声が聞こえることから鶯の鳴くのを推し量っている。
したみづ:雪や氷の下を流れる水
うちとく:凍っていた水や雪がすっかり解ける
- 作者
-
藤原顕綱
- 出典
-
千載和歌集
- 前の歌
-
道絶ゆと厭ひしものを山里に 消ゆるは惜しき去年の雪かな
- 次の歌
-
山里の垣根に春やしるからむ 霞まぬ先に鶯の鳴く