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五月雨に濡れ濡れ引かむあやめ草
沼の石垣浪もこそ越せ

歌の意味
五月雨に濡れながらも菖蒲を引き抜こう。沼の石垣を波が越えて、菖蒲が流されてしまうといけないから。
鑑賞
巻第三 夏歌 169

詞書「菖蒲のうたとてよみ侍りける」
 「菖蒲」を題として詠んだ歌である。五月雨の中、濡れることもいとわずに菖蒲を引き抜こう、ぐずぐずしていると増水した沼の波が石垣を越えて、菖蒲が流されてしまうかもしれないから、と詠む。五月雨と菖蒲という季節の景物を取り合わせ、増水への懸念を「もこそ」の形で表している。
 作者の「摂政前右大臣」は九条兼実である。関白藤原忠通の子で、右大臣を経て摂政に至った。千載和歌集の成立当時の摂政であり、日記「玉葉」を残した。

 初句「五月雨に」は、陰暦五月の長雨に、の意である。本巻の第百七十七首から五月雨を詠む歌が続く。
 二句「濡れ濡れ引かむ」の「濡れ濡れ」は濡れながらも、の意で、「む」は意志の助動詞である。ここで句切れとなる。
 三句「あやめ草」は、引き抜く対象の菖蒲である。前歌の第百六十八首が引き尽くすなと詠んだのに対し、本歌は濡れてでも引こうと詠み、反対の立場から菖蒲を引くことを詠む。
 四句「沼の石垣」は、沼のほとりに石を積んで築いた垣をいう。
 結句「浪もこそ越せ」の「もこそ」は、〜するといけない、という懸念を表し、「越せ」は已然形で結ぶ。波が石垣を越えるといけない、の意である。

さみだれ:陰暦五月頃に降り続く長雨
いはがき:石を積んで築いた垣
作者
九条兼実
出典
千載和歌集
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都人引きな尽くしそあやめ草 旅寝の床の枕ばかりは
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