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杣方に道やまどへるさを鹿の
妻問ふ声のしげくもあるかな

歌の意味
杣山の方で道に迷ってしまったのだろうか。牡鹿が妻を求めて鳴く声が、しきりに聞こえることだ。
鑑賞
巻第五 秋歌下 308

詞書は前の歌に続き「堀河院御時、百首歌たてまつりける時、よめる」
 堀河天皇の時代に百首歌を詠進した歌の一首である。牡鹿が妻を求めて鳴く声がしきりに聞こえるのは、木を切り出す杣山の方で道に迷ってしまったからだろうか、と詠む。鹿の声の多さに理由を推し量り、妻のもとへたどり着けない鹿の姿を思いやっている。
 作者の「大納言公実」は藤原公実である。権大納言藤原実季の子で、大納言に至った。鳥羽天皇の中宮となった待賢門院璋子の父であり、堀河百首の作者の一人である。
 前歌の第三百七首と同じく堀河百首から採られ、妻を求める鹿の声を詠む二首が並ぶ。

 初句「杣方に」の「杣」は、材木を切り出すための山で、杣山の方に、の意である。
 二句「道やまどへる」の「や」は疑問の係助詞で、「まどへる」と連体形で結ぶ。道に迷ったのだろうか、と推し量り、ここで句切れとなる。
 三句「さを鹿の」の「さ」は接頭語で、「さを鹿」は牡鹿をいう。
 四句「妻問ふ声の」の「妻問ふ」は、妻を求めて訪ねる意である。前歌の第三百七首の「妻呼ぶ鹿の」と対応する。
 結句「しげくもあるかな」の「しげく」は、絶え間なく、しきりに、の意で、「かな」は詠嘆である。声の多さを示し、道に迷ったかという推量の根拠を示す。

そま:材木を切り出すための山
つまどふ:妻を求めて訪ねる、妻を恋い慕う
まどふ:道に迷う
作者
藤原公実
出典
千載和歌集
前の歌
三室山おろす嵐の寂しきに 妻呼ぶ鹿の声たぐふなり
次の歌
秋の夜は同じ尾上に鳴く鹿の 更けゆくままに近くなるかな