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常よりも秋の夕べをあはれとは
鹿の音にてや思ひそめけん

歌の意味
ほかの時よりも秋の夕べをしみじみと哀れだと思うのは、鹿の声によって思い始めたのだろうか。
鑑賞
巻第五 秋歌下 322

詞書は前の歌に続き「鹿の歌とてよめる」
 「鹿の歌」として詠んだ歌である。人がいつもより秋の夕べを哀れだと思うようになったのは、もともと鹿の声によって思い始めたからだろうか、と詠む。秋の夕べの哀れさの起源を鹿の声に求め、前歌の第三百二十一首の問いに一つの答えを示すような形になっている。
 作者の「賀茂政平」は賀茂社の神職の家の人であるが、詳しい伝は明らかでない。
 本歌は、「鹿の歌」として詠まれた第三百十七首から第三百二十五首までの九首の一連の六首目である。

 初句「常よりも」は、ふだんよりも、ほかの時よりも、の意である。
 二句「秋の夕べを」は、思う対象を示す。前歌の第三百二十一首の「夕まぐれ」と同じく秋の夕べを詠む。
 三句「あはれとは」は、しみじみと哀れだとは、の意で、思う内容を示す。
 四句「鹿の音にてや」の「にて」は原因、手段を示し、鹿の声によって、の意である。「や」は疑問の係助詞で、結句の「けん」と連体形で結ぶ。
 結句「思ひそめけん」の「思ひそむ」は思い始める意で、「けん」は過去推量の助動詞「けむ」である。初めて思ったのは鹿の声によるのだろうか、と昔を推し量る。前歌の第三百二十一首の問いに答えるように、秋の哀れの起源を問う。

おもひそむ:思い始める
作者
賀茂政平
出典
千載和歌集
前の歌
夕まぐれさてもや秋は悲しきと 鹿の音聞かぬ人に問はばや
次の歌
寂しさを何にたとへんを鹿鳴く 深山の里の明け方の空