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一声も君に告げなん郭公
この五月雨は闇にまどふと

歌の意味
せめて一声でも、亡きあの方に告げてほしい、ほととぎすよ。この五月雨の頃、私は子を思う心の闇に迷っていると。
鑑賞
巻第九 哀傷歌 555

詞書「後一条院隠れさせ給うての年、郭公の鳴きけるによませ給うける」
 我が子である後一条院が崩御した年、ほととぎすが鳴いたのを聞いてお詠みになった歌である。せめて一声でも亡き院に告げてほしい、ほととぎすよ、この五月雨の頃、私は闇に迷っていると、と詠む。ほととぎすは冥途と行き来する鳥とされたので、亡き子への伝言を託している。後一条院は長元九年(1036)四月に崩御した。
 作者の「上東門院」は藤原彰子である。摂政藤原道長の娘で、一条天皇の中宮となり、後一条天皇、後朱雀天皇の母となった。紫式部、和泉式部、赤染衛門らが仕えた。
 「闇にまどふ」は、後撰和歌集の藤原兼輔の歌に、人の親の心は闇ではないが子を思う道には迷ってしまうと詠むものを踏まえ、子を失った母の心の闇をいう。本巻では第五百八十二首、第五百八十八首にも、ほととぎすが詠まれる。

 初句「一声も」は、せめて一声でも、の意である。
 二句「君に告げなん」の「君」は亡き後一条院を指す。「なん」は他に対する願望の終助詞で、告げてほしい、の意である。
 三句「郭公」は呼びかけで、ここで句切れとなる。ほととぎすは冥途と行き来し、死出の山を越えて鳴く鳥とされた。
 四句「この五月雨は」は、この五月雨の降る頃は、の意で、降り続く雨に絶えない涙を重ねている。
 結句「闇にまどふと」の「闇」は、子を思って迷う親の心の闇である。藤原兼輔の歌を踏まえる。「と」は引用の格助詞で、二句の「告げなん」に返る倒置である。

ほととぎす:初夏に鳴く鳥で、冥途と行き来すると考えられた
さみだれ:陰暦五月頃に降り続く長雨
まどふ:迷う、思い乱れる
作者
藤原彰子
出典
千載和歌集
前の歌
老いらくの命のあまり長くして 君に二たび別れぬるかな
次の歌
あやめ草涙の玉に貫きかへて 折ならぬねを猶ぞかけつる