類なく憂きこと見えし宿なれど
そも別るるは悲しかりけり
- 歌の意味
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比べるものもないほどつらいことを見た家ではあるけれど、それでも、ここを離れてゆくのは悲しいことであった。
- 鑑賞
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巻第九 哀傷歌 584
詞書「中納言伊実、六条の家にて身まかりにけるを、後のわざなど果てて、九条の堂に帰り侍りける時、柱に書きつけ侍りける」
子の中納言藤原伊実が六条の家で亡くなり、その後の法事なども終わって、作者が九条の堂へ帰る時、家の柱に書きつけた歌である。比べるものもないほどつらいことを見た家ではあるが、それでもここを離れるのは悲しい、と詠む。我が子の死を見届けたつらい家でありながら、それゆえにこそ子の思い出の残る家を去りがたいという、親の複雑な心情を表している。
作者の「大宮前おほきおほいまうち君」は藤原伊通である。権大納言藤原宗通の子で、太政大臣に至り、九条大相国、大宮大相国と呼ばれた。二条天皇に意見書「大槐秘抄」を献じた。
初句「類なく」は、比べるものがないほど、の意である。
二句「憂きこと見えし」の「憂きこと」は、我が子の死をいう。「し」は過去の助動詞「き」の連体形である。
三句「宿なれど」の「宿」は伊実が亡くなった六条の家をいい、「ど」は逆接の接続助詞である。
四句「そも別るるは」の「そも」は、それでも、の意で、家を離れることを「別るる」といい、子との別れを重ねる。
結句「悲しかりけり」の「けり」は気づきの詠嘆で、悲しいことであった、の意である。
のちのわざ:人の死後に営む法事
だう:仏像を安置する建物、仏堂
かきつく:書きつける、書き記す
- 作者
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藤原伊通
- 出典
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千載和歌集
- 前の歌
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志深く染めてし藤衣 着つる日数の浅くもあるかな
- 次の歌
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数ふれば昔語りになりにけり 別れは今の心地すれども