古典和歌stream

鳥辺山思ひやるこそ悲しけれ
ひとりや苔の下に朽ちなん

歌の意味
母の眠る鳥辺山を思いやるのが悲しい。母はひとりで苔の下に朽ちてゆくのだろうか。
鑑賞
巻第九 哀傷歌 591

詞書「母の二位身まかりて後、よみ侍りける」
 母の二位が亡くなったのちに詠んだ歌である。鳥辺山を思いやるのが悲しい、母はひとりで苔の下に朽ちてゆくのだろうか、と詠む。葬送の地鳥辺山に葬られた母が、誰もいない墓の下でひとり朽ちてゆくことを思い、その寂しさを案じている。母の二位は後白河天皇の乳母を務めた紀伊二位藤原朝子で、永万二年(1166)に没した。
 作者の「民部卿成範」は少納言藤原通憲、すなわち信西の子で、母は紀伊二位藤原朝子である。平治の乱で配流されたが、許されて帰京し、中納言に至った。桜を愛し、桜町中納言と呼ばれた。
 次歌の第五百九十二首は、同じ紀伊二位の死に際して、異母兄弟の藤原貞憲が詠んだ歌である。

 初句「鳥辺山」は山城国の鳥辺野の山で、火葬や埋葬の地として知られる。
 二句「思ひやるこそ」の「こそ」は強意の係助詞で、三句の「けれ」と已然形で結ぶ。
 三句「悲しけれ」は、悲しいことだ、の意で、ここで句切れとなる。
 四句「ひとりや苔の」の「や」は疑問の係助詞で、結句の「なん」と連体形で結ぶ。本巻の第五百五十三首も「ひとりや」と、ひとりで死出の道を行く死者を思いやる。
 結句「下に朽ちなん」の「苔の下」は墓の下をいい、「な」は強意の助動詞「ぬ」の未然形、「ん」は推量の助動詞で、朽ちてしまうのだろうか、の意である。本巻の第五百九十五首も「苔の下かな」と結ぶ。

とりべやま:山城国の鳥辺野の山で、火葬や埋葬の地
こけのした:苔の生えた土の下、墓の下
作者
藤原成範
出典
千載和歌集
前の歌
教へ置くその言の葉を見るたびに 又問ふ方のなきぞ悲しき
次の歌
限りありて二重は着ねば藤衣 涙ばかりを重ねつるかな