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恋ひわびてうち寝る宵の夢にだに
逢ふとは人の見えばこそあらめ

歌の意味
恋に思い悩んで寝る宵の夢の中でさえ、あの人に逢うと見えるのならば、まだしもよいだろうが、それさえもかなわない。
鑑賞
巻第十四 恋歌四 899

詞書「題しらず」
 恋い悩んで寝る宵の夢にさえ、逢うとあの人が見えるならばまだよいが、と詠む。現実に逢えないばかりか、せめてもの慰めである夢の中でさえ逢うことができないと、夢にすら見放された恋の嘆きを表している。夢での逢瀬を最後の頼みとしながら、それさえかなわないという深い絶望を詠んだ一首である。
 作者の「民部卿成範」は少納言藤原通憲の子である。民部卿を務めて中納言に至り、邸に桜を多く植えたことから桜町中納言と呼ばれた。
 前歌の第八百九十八首が夢に慰む恋を詠むのに対し、本歌は夢にさえ逢えない恋を詠み、夢を頼む心と夢にも見放された心とが対照をなしている。本巻の第八百五十一首も初句を「恋ひわびて」で始めている。

 初句「恋ひわびて」の「わぶ」は思い悩む、つらく思う意で、恋しさに思い悩んで、の意である。本巻の第八百五十一首の初句と同じである。
 二句「うち寝る宵の」の「うち」は語調を整える接頭語で、寝る宵の、の意である。
 三句「夢にだに」の「だに」は最小限を示す副助詞で、せめて夢の中でだけでも、の意である。前歌の第八百九十八首の二句「夢に慰む」と対照をなす。
 四句「逢ふとは人の」は逢うとあの人が、の意で、「は」は強調を表す。
 結句「見えばこそあらめ」の「ば」は仮定、「こそ」は強意の係助詞で、推量の助動詞「む」の已然形「め」と結ぶ。見えるのならばまだよいだろうが、の意で、言外に、それさえかなわない、の意を含めて結ぶ。

こひわぶ:恋しさに思い悩む
作者
藤原成範
出典
千載和歌集
前の歌
思ひ寝の夢に慰む恋なれば 逢はねど暮れの空ぞ待たるる
次の歌
わびつつは汝だに君に床馴れよ 交はさぬ夜半の枕なりとも