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先に立つ涙とならば人知れず
恋路に惑ふ道しるべせよ

歌の意味
何よりも先に立って流れる涙であるならば、人知れず恋の道に迷う私の道案内をしてくれ。
鑑賞
巻第十一 恋歌一 678

詞書「百首歌詠み侍りける時、恋の心を詠み侍りける」
 百首歌を詠んだ時に恋の心を詠んだ歌である。先に立つ涙ならば、人知れず恋路に迷う私の道しるべをせよ、と詠む。何かにつけてまず先に流れ出る涙を、先に立って道を案内する者に見立て、恋の道に迷う自分を導いてほしいと呼びかけている。
 作者の「右大臣」は藤原実定である。右大臣藤原公能の子で、本集の撰集当時は右大臣であり、のちに左大臣に至って後徳大寺左大臣と呼ばれた。小倉百人一首にも歌が採られている。
 結句の「道しるべせよ」は本巻の第六百四十二首の結句と同じ句で、第六百四十四首は涙を恋の「しるべ」と詠んでいた。四句の「恋路に惑ふ」は第六百七十四首の四句と同じ句である。

 初句「先に立つ」は、何よりも先に立つ、の意で、涙が真っ先にこぼれることをいう。道案内が先に立って進む意を響かせる。
 二句「涙とならば」は、涙であるならば、の意である。第六百四十四首の四句「涙ぞ恋の」と同じく、涙を恋の案内とする。
 三句「人知れず」は、人に知られないで、の意である。
 四句「恋路に惑ふ」は、恋の道に迷う、の意である。第六百七十四首の四句と同じ句である。
 結句「道しるべせよ」の「せよ」は「す」の命令形で、道案内をせよ、の意である。第六百四十二首の結句と同じ句である。

みちしるべ:道案内、手引き
こひぢ:恋を道にたとえた語
作者
藤原実定
出典
千載和歌集
前の歌
はかなしや枕定めぬうたた寝に ほのかに迷ふ夢の通ひ路
次の歌
永らへばつらき心も変はるやと 定めなき世を頼むばかりぞ