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下紐は人の恋ふるに解くなれば
誰がつらきにか結ぼほるらん

歌の意味
下紐は人が恋しく思ってくれると解けるというのだから、いったい誰の薄情のせいで、このように結ぼれたままなのだろうか。
鑑賞
巻第十三 恋歌三 786

詞書「返し」
 前歌の藤原頼通の歌に対する返しである。下紐は人が恋しく思うと解けるというのだから、誰のつれなさのせいで結ぼれているのだろうか、と詠む。頼通が持ち出した俗信をそのまま逆手にとり、紐が解けないのは、私が打ち解けないからではなく、あなたが恋しく思ってくれないからでしょう、と切り返した機知の歌である。
 作者の「弁乳母」は加賀守藤原順時の娘である。三条天皇の中宮藤原妍子に仕え、その皇女禎子内親王(陽明門院)の乳母を務めた女房歌人である。
 前歌と贈答をなし、前歌が紐の解けないのを相手の心のせいとしたのに対し、本歌はそれを贈り主の心のせいと返して、責める側と責められる側とが入れ替わっている。

 初句「下紐は」は、前歌の三句「下紐の」を受け、話題をそのまま引き取る。
 二句「人の恋ふるに」は、人が恋しく思うと、の意で、下紐が解けるのは人に恋されている兆しという俗信を示す。
 三句「解くなれば」の「なれ」は伝聞推定の助動詞「なり」の已然形、「ば」は順接の確定条件で、解けるというのだから、の意である。
 四句「誰がつらきにか」の「つらき」は薄情、つれなさである。「か」は疑問の係助詞で、結句の「らん」と係り結びをなす。誰の薄情のせいか、と贈り主に責めを返す。
 結句「結ぼほるらん」の「らん」は現在推量の助動詞「らむ」の連体形で、「か」の結びとなる。前歌の二句「結ぼほれたる」を受けて返している。

したひも:下袴や下着の紐
むすぼほる:紐などが固く結ばれてもつれる
作者
弁乳母
出典
千載和歌集
前の歌
恨めしや結ぼほれたる下紐の とけぬや何の心なるらん
次の歌
独り寝る我にて知りぬ池水に つがはぬ鴛の思ふ心を