引きかけて涙を人に包む間に
裏や朽ちなん夜半の衣は
- 歌の意味
-
衣を引きかぶって、涙を人に隠しているうちに、裏が朽ちてしまうのではないか、夜の衣は。
- 鑑賞
-
巻第十三 恋歌三 814
詞書「題しらず」
衣を引きかぶって涙を人に隠しているうちに、裏が朽ちてしまうのではないか、夜の衣は、と詠む。人目に涙を見せまいと夜具を頭から引きかぶって泣くので、表には見えなくとも、涙を受け止める衣の裏が朽ちてしまいそうだという趣向で、人知れず泣く忍ぶ恋の深さを表している。
作者の「右大臣」は藤原実定である。右大臣藤原公能の子で、本集の撰集当時は右大臣であり、のちに左大臣に至って後徳大寺左大臣と呼ばれた。小倉百人一首にも歌が採られている。
本巻の第八百二十八首は、夢に人を見ようと衣を返して寝たために、袖の裏まで濡らすと詠み、衣の「裏」を涙で濡らす点で本歌と対応する。
初句「引きかけて」は、衣を頭から引きかぶって、の意である。
二句「涙を人に」は、涙を人に、の意で、三句の「包む」へつながる。
三句「包む間に」の「包む」は隠す意で、隠しているうちに、の意である。
四句「裏や朽ちなん」の「や」は疑問の係助詞、「な」は完了の助動詞「ぬ」の未然形、「ん」は推量の助動詞「む」の連体形で「や」の結びとなる。表ではなく裏が朽ちてしまうのではないか、の意である。ここで句切れとなり、結句と倒置の関係にある。本巻の第八百二十八首の四句「裏さへ袖は」と同じく、衣の裏を濡らす涙を詠む。
結句「夜半の衣は」の「夜半の衣」は夜寝る時の衣、夜具である。倒置によって最後に主語を示す。
ひきかく:引きかぶる
よは:夜中
- 作者
-
藤原実定
- 出典
-
千載和歌集
- 前の歌
-
恋すれば燃ゆる蛍も鳴く蝉も 我が身の外のものとやは見る
- 次の歌
-
潮垂るる伊勢をの海人の袖だにも 干すなる暇はありとこそ聞け