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月待つと人には言ひてながむれば
慰めがたき夕暮の空

歌の意味
月を待っているのだと人には言って、物思いにふけって眺めていると、なんとも慰めようのない夕暮れの空であることよ。
鑑賞
巻第十四 恋歌四 873

詞書「二条院御時、上の男ども百首歌たてまつりける時、忍恋の心を詠める」
 二条天皇の時代、殿上人たちが百首歌を奉った時に、「忍ぶ恋」の題で詠んだ歌である。月を待つのだと人には言って眺めていると、慰めがたい夕暮れの空である、と詠む。人目を忍ぶ恋であるために、夕暮れの空を眺めている理由を、月の出を待っているのだと言ってごまかしながら、実は恋しい人を思って物思いにふけっている心を表している。題の「忍恋」を、人へのいつわりの言葉で巧みに表した一首である。
 作者の「刑部卿範兼」は藤原範兼である。藤原能兼の子で、刑部卿を務めた。歌学にすぐれ、『和歌童蒙抄』などを著した。
 本巻の第八百四十四首は結句を「秋の夕暮」とし、第八百八十四首は「明け暮れの空」、第八百九十八首は「暮れの空ぞ待たるる」と、夕暮れの空を恋の時として詠む歌が巻中に配されている。

 初句「月待つと」は月の出を待つのだと、の意で、人目をごまかす言い訳を示す。
 二句「人には言ひて」の「は」は取り立ての係助詞で、人に対してはそう言って、の意である。本心は別にあることをほのめかす。
 三句「ながむれば」の「ながむ」は物思いにふけってぼんやりと見やる意で、「ば」は順接の確定条件である。眺めていると、の意となる。
 四句「慰めがたき」は心を慰めることのむずかしい、の意である。
 結句「夕暮の空」は体言止めで、恋しさのつのる夕暮れの空を示して結ぶ。本巻の第八百八十四首の結句「明け暮れの空」と同じく「空」で結び、第八百九十八首の「暮れの空」とも通じる。

ながむ:物思いにふけってぼんやりと見やる
作者
藤原範兼
出典
千載和歌集
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