音を泣けば袖は朽ちても失せぬめり
なほ憂きことぞ尽きせざりける
- 歌の意味
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声を上げて泣くので、袖は涙に朽ちて失せてしまったようだ。それなのに、つらいことはなお尽きることがなかったのだなあ。
- 鑑賞
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巻第十五 恋歌五 905
詞書「題しらず」
声を上げて泣くので袖は朽ちて失せてしまったようだが、それでもなお憂いことは尽きなかった、と詠む。涙に濡れ続けた袖は朽ちてなくなってしまうほどなのに、悲しみの方は尽きることがないと、袖という形あるものの消滅と、尽きることのない心の憂さとを対比して、限りない嘆きを表している。
作者の「和泉式部」は越前守大江雅致の娘である。和泉守橘道貞の妻となって小式部内侍を生み、のち為尊親王、敦道親王と恋愛関係を結んだ。上東門院彰子に仕え、情熱的な恋の歌で知られる。小倉百人一首にも歌が採られている。
本歌から第九百七首までの三首は和泉式部の歌が続く。本歌の「音を泣けば」と次歌の「音に泣きて」と、声を上げて泣くことを詠む二首が並んでいる。
初句「音を泣けば」の「音を泣く」は声を上げて泣く意で、已然形に「ば」が付いた確定条件で、声を上げて泣くので、の意である。次歌の第九百六首の四句「音に泣きてこそ」と応じる。
二句「袖は朽ちても」は、涙に濡れ続けた袖が朽ちても、の意である。本巻の第九百四十首の二句、三句「押さふる袖も朽ち果てて」も、涙に袖が朽ちることを詠む。
三句「失せぬめり」の「ぬ」は完了の助動詞、「めり」は推定の助動詞で、なくなってしまったようだ、の意である。ここで句切れとなる。
四句「なほ憂きことぞ」の「なほ」はそれでもやはり、の意である。「ぞ」は強意の係助詞で、結句の「ける」と連体形で結ぶ。袖は失せても憂さは失せない、という対比が浮かび上がる。
結句「尽きせざりける」の「尽きせ」は尽きる意の「尽きす」の未然形、「ざり」は打消しの助動詞、「ける」は気づきの詠嘆の助動詞「けり」の連体形で、四句の「ぞ」を受けて結ぶ。尽きることがなかったのだ、の意である。
ねをなく:声を上げて泣く
つきす:尽きる、なくなる
- 作者
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和泉式部
- 出典
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千載和歌集
- 前の歌
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うたた寝にはかなく覚めし夢をだに この世にまたは見でや止みなん
- 次の歌
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ともかくも言はばなべてになりぬべし 音に泣きてこそ見すべかりけれ