ともかくも言はばなべてになりぬべし
音に泣きてこそ見すべかりけれ
- 歌の意味
-
あれこれと言葉で言えば、ありきたりのことになってしまうだろう。声を上げて泣くことでこそ、この思いを見せるべきであったのだ。
- 鑑賞
-
巻第十五 恋歌五 906
詞書「題しらず」
あれこれと言葉にすれば、ありふれたものになってしまうだろう、声を上げて泣くことでこそ思いを見せるべきであった、と詠む。恋の思いをどれほど言葉を尽くして伝えても、世によくある言葉と同じになってしまうので、言葉ではなく泣く姿でこそ思いの深さを示すべきだったと悟っている。言葉の限界を見つめた、歌人らしい一首である。
作者の「和泉式部」は越前守大江雅致の娘である。和泉守橘道貞の妻となって小式部内侍を生み、のち為尊親王、敦道親王と恋愛関係を結んだ。上東門院彰子に仕え、情熱的な恋の歌で知られる。小倉百人一首にも歌が採られている。
和泉式部の歌の二首目である。前歌の初句「音を泣けば」を受けて、本歌は「音に泣きてこそ」と詠み、声を上げて泣くことを詠む二首が続いている。
初句「ともかくも」は、あれこれと、どのようにでも、の意である。
二句「言はばなべてに」の「言はば」は未然形に「ば」が付いた仮定条件で、言葉にして言うならば、の意である。「なべて」はありふれていること、並一通りの意である。
三句「なりぬべし」の「ぬ」は完了(強意)の助動詞、「べし」は推量の助動詞で、きっとなってしまうだろう、の意である。ここで句切れとなる。
四句「音に泣きてこそ」は、声を上げて泣いて、の意である。「こそ」は強意の係助詞で、結句の「けれ」と已然形で結ぶ。前歌の第九百五首の初句「音を泣けば」と応じる。
結句「見すべかりけれ」の「見す」は見せる意、「べかり」は当然の助動詞「べし」の連用形、「けれ」は詠嘆の助動詞「けり」の已然形で、四句の「こそ」を受けて結ぶ。見せるべきであったのだ、と言葉ではなく泣く姿で示すべきだったと悟る思いを表す。
なべて:ありふれていること、並一通り
みす:見せる
- 作者
-
和泉式部
- 出典
-
千載和歌集
- 前の歌
-
音を泣けば袖は朽ちても失せぬめり なほ憂きことぞ尽きせざりける
- 次の歌
-
有明の月見ずひまに起きていにし 人の名残を眺めしものを