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物思はぬ人もや今宵ながむらん
寝られぬままに月を見るかな

歌の意味
もの思いのない人も、今夜はこの月を眺めているのだろうか。私はもの思いに寝られないままに月を見ていることだ。
鑑賞
巻第十六 雑歌上 984

詞書「題しらず」
 もの思いのない人も今夜は月を眺めているだろうか、私は寝られないままに月を見ていることだ、と詠む。自分はもの思いのために眠れず月を見ているが、月の美しさゆえに、もの思いのない人も今夜は眺めているかもしれないと思いやり、月のもとでの自分の憂いを際立たせている。
 作者の「赤染衛門」は赤染時用の娘である。大江匡衡の妻となり、上東門院彰子に仕えた。中古三十六歌仙の一人で、小倉百人一首にも歌が採られている。
 前歌の第九百八十三首がひとり月を眺める物思いを詠むのに続き、本歌は眠れずに月を見る物思いを詠む。また次歌の第九百八十五首とともに、もの思いと月を結ぶ歌が並ぶ。

 初句「物思はぬ」は、もの思いのない、の意で、自分とは異なる人を想定している。
 二句「人もや今宵」の「や」は疑問の係助詞で、三句の「らん」で結ぶ。
 三句「ながむらん」の「らん」は現在推量の助動詞で、眺めているのだろうか、の意である。ここで句切れとなる。
 四句「寝られぬままに」の「れ」は可能の助動詞「る」の未然形、「ぬ」は打消しの助動詞「ず」の連体形で、寝られないままに、の意である。
 結句「月を見るかな」の「かな」は詠嘆の終助詞で、月を見ていることだ、の意である。

ながむ:もの思いにふけりながらぼんやりと見やる
作者
赤染衛門
出典
千載和歌集
前の歌
ひとりゐて月をながむる秋の夜は 何事をかは思ひ残さん
次の歌
ながめつつ昔も月は見しものを かくやは袖のひまなかるべき